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アースデー・グリーン・フォーラム
地球のために、いま僕たちができること
講師 田中 優さん 2001.4.21


うちのかみさんは牛乳をとる形で放射能を取り込んでしまった

原発止めようと2 万人集会に成功して以降、運動は盛り下がりました

タイは日本のODAでリサイクルが失われていった

日本に膨大な木材が輸出、森の国タイは国土の10%程度しか森が残っていません

日本の需要が『悪魔の木』を植え、荒れ果てた土地をつくる

緑の監獄”一度プランテーションの中に閉じ込められたら二度と外に出て行くことができない人たち

日本では作ってはならない農薬をマレーシアまで出て行って作って売っている

プランテーションとスラムでは子どもが増えていくという現象が起こる

「飢餓輸出」“日本人食用専用 地元民食用禁止”
  ──豊かな土地であるというのに、多くの人たちが飢えて死んでいきます

“8 ”入ってきて“1 ”しか出さないんですから、日本には毎年“ 7 ”の資源が溜まっていくことになりますね。
  これがゴミ問題です

リサイクル資源を途上国に送ってしまったための悲劇 ──全地球上でリサイクルが崩壊

途上国の側からすると、物は持っていかれる、その代金は借金の返済に充てられて日本にまた戻っていってしまう
  ──ODA というものは、途上国の資源を日本に奪ってくるために出すもの?

なぜ金貸しなのか? 日本のODAは国民の貯金を使っているから
  ──このようなカネのプールの仕方をしているのは日本だけです

IMF (国際通貨基金)の凄まじい脅かし

大豆ならいくらでも日本が買うから、ブラジルでは国民の79%が十分な食料が得られません

電気を使ってアルミを作るのに電気の値段よりもアルミの値段の方が安い
  ──作れば作るほど損をする、にもかかわらず輸出しなければならない

永遠に借金を増やしながら返済を続けているという途上国の構造と競わされる先進国の労働者。
  カネはどんどんと大金持ちのところに持っていかれる

奴隷船、狂牛病の牛肉輸出、臓器をとられて殺され投げ捨てられる
  ──貧しい人たちのところにありとあらゆる被害が届いていくような構造

ロシアではアルミ精錬工場が一つあると、その周囲五万ha から十万haが全部白骨化していく

私たちが仙人のような暮らしをしてゴミを出さなくても二十四分の二十三残ります。 これを解決したといいますか?

自分の内側に留め続けるんであれば何ら意味がないんです。
  それを何らかの形で表現していかないとムダになっちゃうわけですね

地域通貨の運動はその時になったら圧倒的な力を持ちます

非営利の市民セクターが自ら社会の主体となってそれに代わっていく 

今日はお招き頂きましてありがとうございます。本日のお話の演題としては、「地球のために、 いま僕たちができること」というテーマになっています。最初にスライドを見ていただいて、その次にリサイクル問題から世界の今の状況ですね、そういうようなものの構造について触れていきたいと思います。そして最後に、どうしていったら私たちにこの問題が解決できるのか お話ししていきたいというふうに思っています。

今回のお話で皆さんにお伝えしたいのは、とにかく原因に対して解決策を打ち出さなければ 解決できないんだ、ということですね。私たち、ともすると本当に自分の身の回りでできるこ とって考えて、そのことに集中するあまり、非常に見当違いのことをやっていることがままあ ります。

見当違いのことをいくらやっていても解決には至りません。で、どうしても解決して いきたい問題があるならば、原因がどこになるのかというのをちゃんと調べて、その原因に対 して対策していかないと解決できません。そのことについて、じゃあどういうふうにしていっ たらいいのか、という順で話しをしていきたいと思います。

うちのかみさんは牛乳をとる形で放射能を取り込んでしまった。

私なんですけれど、まあ自己紹介的に言いますと、私自身もいまNGO に10 個くらい入って 活動しています。いろんなNGO やってきているわけなんですが、わたし自身がNGO 活動に入ったのは、いまから13 年位前ですか、13 年位前に地元の地域のグループでスタートしています。

そもそも僕自身に子どもがいてですね、二人目の子どもが生まれる前にチェルノブイリの原発の事故があったんですね。その頃僕自身はそういうことに興味がなかったから、それについて全然知りませんでした。生まれてきた子どもは生まれて3 ヶ月で入院しちゃったんです。その時にはなんとも思わなかった。体が弱かったんだな、としか思わなかった。

しかし後々になって調べてみると、実はその子どもがかみさんのお腹の中にいる頃にチェルノブイリの事故があって、日本にもかなり高濃度の放射能が降り注いでいました。日本の食品基準で言うと370 ベクレル以下という基準になっているんですけれど、日本で1000 ベクレルの雨が降っています。

そしてですね、その放射能は微生物が濃縮して、その微生物を食べる中くらいの生物がさらに濃縮して、それを大きな生物がさらに濃縮して、というふうに濃縮されていきます。その濃縮された放射能を、僕はその頃問題に全然興味がなかったので、かみさんにですね、妊娠中はカルシウムが不足するから牛乳を飲め飲めと勧めていたんですね。

うちのかみさんはそれで牛乳をとる形で放射能を取り込んでしまった。この放射能は人間の作った放射能ですから体の中に蓄積されます。自然にある放射能は蓄積されないんですが…。そもそも40 億年前の地球っていうのは放射能だらけだったんですね。それがだんだん減って安定してきて、生き物が生きられるようになった。

だから生き物は自然に作られた放射能は貯めないんですが、人間が突然作り上げてしまった放射能のほうは栄養と間違えて貯めてしまう。生き物は全て人工放射能を貯めてしまうんです。しかも放射能を受けた影響というのは、そもそも環境中に1しかなかったとしても、人間が取り込むときには数万倍の濃度に変わっています。植物が栄養と思って集めて、それを微生物が集めて、さらに小さな生き物が集めて…と、数万倍に濃くしてしまうのです。

その放射能の影響っていうのは、遺伝子を壊すのでとりわけ成長期にある人ほど被害が深刻になります。つまり大人より子どもは10 倍敏感です。胎児の場合は100 倍敏感です。私は100 倍敏感な胎児のところに放射能を届けてしまった。

僕自身はその頃、労働組合運動とかをやってたんです。自分としてはそれは子どもの将来を考えて、子どもが大人になったときにもっといい社会にしたいと思って活動していたつもりだったんです。だから子どものためにって考えていたんですね。

ところが現実には自分は子どもを守れていなかった。そういう問題についても知らなかった、全然何の罪の意識もなく放射能の入った牛乳を子どもに届けてしまった。そのせいで結果として子どもは入院してしまったんではないか、そういうふうに自分にとっては思えたわけです。放射能の影響っていうのは、一万人が同じ濃度を飲めば例えば一人ガンになって死ぬ、放射能の影響はどの人に出るかは分らないけれど、トータルで見ると被害は必ず一定割合出るっていうものなんですね。

だからうちの子どもがチェルノブイリのせいであるのかどうかは分かりません。でも僕自身にとってみると子どもを守る、子ども達のために活動する、と言っておきながら現実には子どもを守れていなかった。そのことがもっときちんと環境問題について調べていかなくちゃいけない、と考えることになったきっかけです。

原発止めようと2 万人集会に成功して以降、運動は盛り下がりました

そして地域で反原発のグループをつくり、その中でさらにいろいろ調べて、このまんまじゃだめだ、ここだけやっていたんではだめだ、もっとこういうふうに広げていかないと、とどんどん調べ続けていった結果が、今日お話しするお話です。

僕自身は地域の運動でやっていたんですけれども、その活動の中からだんだんともっと大きなNGO の方の活動をするようになっていきました。そして今、10 個くらいのNGO の理事とか代表をするようになっていっているわけです。その反原発の運動のほうは、わたしたちが88年に原発止めようと2 万人集会というのを日比谷公園でやったんですけれども、それに成功して以降、運動は盛り下がりました。

いくらやっても人が集まってくれないという状態にどんどん下がっていきました。その中で僕たちは反省したんですね、なぜこれほど人気がなくなってしまうのか。いくつか我々の方にも悪い点があったんじゃないか、と。そう考えていって二つ思いつきました。ひとつは危機感を引っ張りすぎた、つまり原発は今日爆発する、明日爆発するっていうような形での危機感を煽るというやり方をした。一時的には人を近づけます。しかしそれは長続きしないんです。誰でもそうなんだけれど、誰でもそんな恐い恐いと思いながら一生暮らすことはできないんですから。

危機感を引っ張りすぎることはよくない、もっと生活に密着した身近なところから始まっていく運動じゃなくちゃいけない、というふうに私たちは反省したわけですね。二つ目の反省点は、いま言ったとおり生活に密着していなかったということです。

そこで私たちが始めたのはゴミ問題とリサイクル運動でした。89 年からリサイクルを始めてゴミ問題について調べていって、そして90 年の今日、アースディでの企画ということになったのです。90 年のアースディのときにゴミ問題を中心に据えてですね、日本の中で全く知られていなかった「リサイクル」という言葉、いまの時点では誰でも知っている言葉ですが、それを広げていく活動をしてきました。ではそのゴミ問題をやり始めたところから見えてきたことについて、お話をしていきたいと思います。じゃあ早速スライドの方から見ていきたいと思います。

タイは日本のODAでリサイクルが失われていった

このスライドは、いまお話ししたように私たちが地元の江戸川区でリサイクル活動しているところの写真です。私たちがそのスライドに写っているようなリサイクル活動を始めたのは89 年ですが、当初始めたときは全然人気がなくて、誰も知らなくて、そのためにですね、こうやって道端でリサイクルしているとおまわりさんにですね、「お前達何やってるんだ、許可を取ったのか」と怒られたりなんかしたんですが、今はおまわりさんが来ると「ご苦労様です」とか言ってくるんですけれども、そのくらい状況は変わりました。

私たちがリサイクルしていたのは牛乳パックとアルミ缶を中心にしてやっていたんですけれども、これは団地の前で出してもらった空き缶をつぶして、出してもらった牛乳パックを揃えているところの写真です。もし私たちがリサイクルをしなかったとするとどうなるかというのが、次のスライドです。もし私たちがリサイクルをしなかったとすると、このスライドに写っている中央防波堤先埋立地、東京の処分場ですね、こちらの方に捨てられていってしまうことになります。

当時ここの処分場にはですね、新品なんかもどんどん捨てられていました。今はだいぶリサイクルが徹底してきたようで、ゴミの量も不景気のせいで減ったので、そのおかげで今は全量を燃やすことが出来るようになった。燃やした後の灰と、燃やしてはならないゴミが、今はこちらのほうに届くようになっています。まあどちらにしても大変膨大な量のゴミがですね、ここに捨てられていくということになっています。次お願いします。

この写真はですね、同じ処分場の写真ですが日本ではありません。タイのオンヌットスラムというタイのゴミ処分場の写真です。日本と全然違うのはまず大きさですね。タイのバンコクというのは八百万人住んでいて東京23 区とほぼ同じです。にもかかわらずここのゴミ処分場の広さは二十三分の一の広さ、つまり東京でいえば23 区の1 区分しかゴミが出ていないという状況です。

あともうひとつ違うのはゴミそのものの形ですね。もうほとんどコーヒーを引いた後のガラのような形のないものばかりが捨てられます。これが乾季に行くとですね、こうやってゴミが勝手に腐るもんですから、メタンガスが発生して勝手に火がついて燃えてしまうんですね。それで煙で煙っていく。そのためにどこの国でもゴミ処分場は「スモーキーマウンテン」というふうに呼ばれているわけです。次お願いします。

なぜ形のあるゴミが極めて少ないかというと、ゴミを拾って生活している人たち“スカベンジャー”と呼ばれるんですけれども、そのスカベンジャーの人たちが暮らしているからです。彼らはこの中に落ちているビンとか缶とか厚手のビニール袋とか紙とか、あとありとあらゆる形のある物を拾って売ってしまいます。

もちろん彼らは環境にいいからとか、リサイクルのためとか思っているわけではなく、生活のひとつの手段としてリサイクルをしているわけです。実は「リサイクル」という言葉はごく最近できた言葉でして、もともと日本もずっとリサイクルしてきていますね。その頃日本は廃品回収だとかいうような言い方をしていましたけれども、その頃は単に売れるものだから集めて売っていた。

ですから「リサイクル」という言葉は、経済的な形できちんと回らなくなったときに美しい言葉として語られ始めた、モラルに訴えるために美しい言葉として使われ始めたというのが実際だと思います。ですから本来の形でいうならば、リサイクルという言葉が消えてなくなって、自分から自然に、それを売るとカネになるからとやっていけるようになっていくのが望ましいと思います。次お願いします。

この写真はですね、このスカベンジャーの人たちが集めた厚手のビニール袋を洗って干しているところの写真です。この厚手のビニール袋、こうやって川で洗って、いま干しているんですけれど、これを乾いた時点で集めると、1k 大体90 円で売れます。ところがビニールですから膨大な量を集めないと1k にならないんですね。まあ大変な作業をしてやっと90 円稼ぐという構造なんです。でも、今このリサイクルはもうなくなっていると思います。

なぜかというと、これは93年に撮った写真なんですけれども、実はその後ですね、タイに日本の政府開発援助、いわゆるODAでですね、タイにビニール・プラスチック工場が送られていきました。そのビニール・プラスチック工場で、安い値段でビニール袋が生産されるようになったわけです。そうするとこうやって集めても、90 円で買うより新品を使い捨てにした方が安くなってしまって、誰も買わなくなるわけです。そうするとせっかく集めたとしても売れない、そうなると集めても意味がない、ということでこのようなリサイクルが失われていく結果になっていきます。次お願いします。

日本に膨大な木材が輸出、森の国タイは国土の10%程度しか森が残っていません

そしてそのタイという国の様子なんですけれども、かつて森の国と呼ばれていたタイは、1960年まで国土の60%以上が森に覆われていました。森の中には象が住んでいたりして、本当に象と森の国だったわけです。ところが現時点では、国土の10%程度しか森が残っていません。乾季の時に行くとこういう風景ですね。見渡す限り赤茶けた大地が剥き出しになっていて、ときどき太い木が倒れていて、ここもちょっと前までは森だったんだなあと思い起こさせるだけです。

そしてここのタイからも日本に膨大な木材が輸出されてきました。ところが日本の統計には出てきません。なぜ出てこないかというと、日本はあまりにも膨大な木材を輸入するものだから、タイぐらいの木の量ではとても統計上に乗るほどの大きさにはならないんです。タイから送られてきた木はですね、「チーク」とか「マホガニー」とかいう名前の比較的高級な堅い木材として使われて、コタツの脚とか机の脚とか、そういうふうなものに使われていきました。次お願いします。

そしてこれが今タイの中で貴重な原生林が残っている場所なんですけれども、ところがここに煙が出ている。何かというと森を燃やしてしまっているんです。貴重な森を、10%を切るようなレベルしか残っていない森を燃やしています。なんとタイの軍隊が燃やしていました。タイの軍隊はもちろん国の国是として森を守らなくちゃいけないことになっているんです。ところが現実にはこうやって森を燃やしてしまっています。次お願いします。

日本の需要が『悪魔の木』を植え、荒れ果てた土地をつくる

何のために燃やしているかというと、この森を作るためです。この道路の左側に写っているのはユーカリです。日本ではユーカリというとイメージが良くて、ユーカリヶ丘であるとかコアラのイメージとかで捉えられがちですが、現地では『悪魔の木』と呼ばれています。なぜ悪魔の木なのか、二つ理由があります。ひとつは成長が早い代わりに徹底的に土の養分と水を吸い上げてしまう。

そのためにですね、このユーカリの植林というのは一斉に、パァーッと見渡す限り植林に変えてしまうのですが、そういうところではまず土の養分がなくなっていきます。そして水が吸い上げられてしまうために近くの水源は水が枯れます。そしてまた浅い井戸は水が枯れます。大規模に植えられている例えばブラジルでは、湖がひとつ干上がって消えてしまった、ということまで起こしています。それが一つめのユーカリの害です。

もう一つのユーカリが嫌われる原因は、ユーカリの葉っぱから出てくる成分によります。ユーカリの葉っぱからはユーカリオイルというのが出て来る油ですね。これ実は私たちも身近に使っているものなんです。防虫スプレーであるとか喉飴であるとか、いろいろな殺菌剤であるとかメンソレータムであるとか、そういったものにユーカリオイルが使われています。

このユーカリオイルというのが葉っぱから出ているんですね。それは非常に殺菌性の高い油です。それがスコール状の雨とともに地上に降り注ぐことになります。そうすると土は殺菌されて微生物がいなくなります。そして当然のことですが、いくらユーカリの葉っぱが落っこってきても腐っていかないことになります。

普通は森があると豊かな腐葉土ができて土壌流出を防ぐ、土が流れ出るのを防ぐわけですが、その逆のことが起こります。ユーカリが植えられたところではどんどんと土壌が流出してしまうんです。どんどんと土壌が流出していって、ユーカリの森があるために土がダメになるという現象を起こしてしまう。なぜこれほどユーカリを植えたがるのかというふうに考えてみると、実は、これは私たちの紙需要です。

とりわけオフィスオートメーション用の紙、要するにコピー紙であるとか、コンピューターなどのOA 紙ですね、ああいうふうな白くてツルツルしたきれいな紙、あの紙の材料として一番適しているのが、このユーカリのチップなんです。そのためにですね、世界中でユーカリが今どんどんと植えられています。次お願いします。

そしてそのユーカリなんですけれども、実は日本でも膨大に消費していて、それを使っているわけなんですが、ところが企業はですね、よくそのユーカリを植えておきながら「私たちは地球緑化を行っています」とかいうふうな形で宣伝しています。

例えば自動車メーカーが「わたしたちは二酸化炭素を吸収させるために植林をやっています」だとか、電力会社が「二酸化炭素を吸収させるために植林を行っています」だとか言いますけれども、その樹種を調べてみてください。ほとんどがユーカリです。しかしこのユーカリというのは結局こうして切り取られて輸出されていくだけなんで、森にはなりません。育ってきたら切り取られ紙になり、もう一回育ってきたらまた切り取って紙になり、それを3 〜4 回繰り返すとついにユーカリすら育たない土ができます。

つまりもう木がどんなことをしても育っていかないような、よっぽどの年月をかけなければ再生できないような、荒れ果てた土地になってしまうわけです。これはベトナムで撮った写真です。先ほどはタイでしたけれども、実はユーカリの写真は世界中どこへ行っても撮ることができます。どこの国でもいまやユーカリがあちこちに植えられているんです。

これは緑化ではありません。いうならばこれまでコーヒー・紅茶・綿花、こういった商品作物と呼ばれるようなものを途上国では生産していたんですが、それがたまたま木の形をして立っているに過ぎない。それがユーカリの現実なんです。次お願いします。

そして切られた木はですね、こうやって粉々にされて積み上げられます。これ、チップといいますね。この後これを紙にしていくわけです。車の大きさから見てどれほどの巨大な山ができているかお分りになると思います。次お願いします。

これがそのチップを運ぶための船です。ここベトナムのダナンという港なんですけれども、この船はここでチップを積み込んで日本に運んでいきます。日本ではこれを使ってですね、だいたい年間一人当たり240 Kgの紙を使っているわけですが、その紙の原料にされているという状態です。次お願いします。

これはですね、場所が変わりましてマレーシアのサラワクというところの熱帯雨林の様子です。熱帯雨林の風景はブロッコリーを並べたような感じなんですが、仮にここに写っているのが100m四方だったとします。つまり1ha です。100m 四方だったとして同じ種類の木は何本あるかなと、この森の中を捜したとします。ほとんど一本しか見つかりません。多くても二本しかない。

熱帯雨林にはいくつかの特徴があるんですが、多種多様な森であるというのが熱帯雨林の一つの大きな特徴です。ですから熱帯雨林の場合ちょっと壊してしまうとですね、同じ種類の木が滅多にないので受粉する可能性が極めて下がってしまうんです。そうすると今はその木は生きているけれども、次の世代を育てられるかというと受粉できないのでダメになっていってしまうわけです。

そしてもう一つの特徴は『実のなる木』が多いということです。日本も実のなる木が多い国ですが、それ以上に実のなる木が多い。日本の場合、例えば今スギ花粉症というのが流行っていますね、あれは風媒花ですね。風が媒介して雄しべと雌しべをくっつける。だからこそ花粉症が起こるわけですが、熱帯雨林には風媒花はありません。全部虫媒花、虫が媒介しています。

ですからその虫たちを食べさせていけるだけの蜜、そしてまた実、こういうものがないと受粉自体が可能になりません。そのために実を成らす木、そして花をつける木が圧倒的に多いのです。そのためにですね、その微生物達が生きていられて、小さな虫たちが生きていられて、それを食べる大きな動物が生きていられてということの中で、全地球上の野生生物の50%以上がこういう森に棲んでいるのです。ところが今それがどんどん壊されていっているわけです。次お願いします。

これは熱帯雨林の木が伐採されてしまった直後の写真です。人間が写ってますので、どれくらいのサイズかお分りになると思います。熱帯雨林の木というのはものすごく高く伸びるんですね、40〜50m の高さになりますから、日本のビルディングでいうと14〜15 階建てくらいの大きさまで、ずーっと真っ直ぐな木が伸びていくわけです。この木も樹齢にして数百年もしくは千年くらいかかって育った木かもしれません。ところがこうやって簡単に伐採されてしまったということです。次お願いします。

その木の様子ですけれども、ここに写っているのは右側が質のいい木ですね、左側が質の悪い木です。この質のいい方の木は日本のようなおカネを持っている国が買っていきます。そして左の簾が入ってしまった質の悪い木は貧しい途上国が買っていきます。かつての森の国だったタイは今や森の輸入国です。

かつて「ラワン」という言葉を作ったほど日本に集中豪雨的に輸出をしたフィリピン、このフィリピンも森を全部切られてしまったので今や輸入国です。そういった国々は木材を輸入したい、しかしカネがない、そういう中でこの質の悪い木を買っていくという形になっています。右の方の木は日本に送られてくる木ですが、これはよく見て頂くと一つ大きな特徴があります。

何かというと年輪がないんです。このことを長所として利用する方法があります。この木を外側から大根のかぶら剥きのように薄く皮をスルスルっと剥いでいきます。剥いだ皮をたて横直角に接着剤で貼り合わせていったもの、これがベニヤ板です。このベニヤ板の原料として使うのに、この熱帯雨林の木材は非常に適していたわけです。そのために熱帯雨林の木材は伐採されて、それが日本で安物の家具になるようなベニヤ板として使われたということです。次お願いします。

それがこういうふうにボートに載せられて日本に輸出されていくわけです。日本の側から見るとこの熱帯雨林の木材の輸入量というのは、日本の輸入している木材の五分の一だけです。日本は熱帯木材の世界最大の輸入国です。熱帯雨林を輸出する側からの国から見て、丸太の50%を日本に輸出しています。木材全体でみると30%を日本に輸出しています。

にもかかわらず日本から見ると、5本に1本しか熱帯雨林はないんですね。なぜかというと日本はあまりにも膨大な木材を浪費している国だからです。それ以外の5 本中4 本はカナダやアメリカから輸入している針葉樹です。これもまたすごい環境破壊を現地では起こしているんですけれども、ところが日本側はそれをどんどん輸入してきてしまう。

向こうの人たちを日本に招くと驚きますね。日本はあれほど膨大な木材を輸入するんだから、砂漠のような木のない国だと思った。ところが成田に降りてみると周りじゅう森だらけ。飛行機で飛んでみると実際いま国土の67%が森ですから、緑だらけですね。そして日本の中の森っていうのは毎年ちょっとづつ育っていく量だけで、だいたい七千万立方mから一億立方mあります。日本の木材が最大に消費されたときで一億二千万立方mですから、日本はほとんど自給できてしまうほどの森を持っているんです。

にもかかわらず自分の国の木は使わず、そして荒れるに任せ、そして他人の国の貴重な木材をどんどん輸入してきてしまう、そんなことをやってきているわけですね。次お願いします。

そして、その日本に届いてきた熱帯の木材をですね、一番膨大に使うのがこのコンクリートパネルです。これはコンクリートをこれから流し込むために、ベニヤ板を並べたところですね。コンクリートを流し込む前に、ちょうどプリンの型のように先に枠を作っておくわけです。その枠として使うのがこのベニヤ板です。ベニヤ板って畳一枚分の大きさでいくらか知っていますか? 千円ですよ。12mm 、1.2cm の厚さで千円です。これなんと紙より安いんですね。

これほどまでに安い木材だから、こういうような形でどんどん使い捨てられていく。統計上は2.5 回使って捨てるということになっていますが、現場の人に聞くと「いやあ、1 回で捨てちゃうよ。2 回も3 回も回せるほどきれいにならないからね、穴あけちゃうし」。だから彼らは1回使うとほとんど捨てているんですね。そうするとどういうことになるか。木材、木のほうは育つのに数百年かかった、ところが日本に届くと1 ヶ月でゴミになるということです。

数百年かかって育って木を1ヶ月でゴミにしつづければ、あたりまえですが地球上の森林はなくなっていく、地球上の森がどんどん減っているのはあたりまえのことなんですね。成長にかかった期間と同じくらい使ってやらなければもちろん森は減っていきます。にもかかわらず、こういうことを延々と続けてきています。

熱帯の森がなくなってしまうのは2020 年頃って言われていました。もう2001 年になっちゃいましたから、もう20 年を切っているという状態ですね。みなさんが20 年後に気づいたときにはもはや熱帯雨林というものは、どっかの国立公園にチョビッと残ったものか、あとは図鑑で見るしかないという状態に変わっていくことになります。次お願いします。

“緑の監獄”一度プランテーションの中に閉じ込められたら二度と外に出て行くことができない人たち

そしてもう一つ、大問題の植林ですが、これはマレーシアで撮っていますけれど、油やしのプランテーションです。この油やしの森っていうのは南国情緒があふれていてですね、非常に綺麗に見えます。 そしてまたマレーシアでは“We Clean The Earth ”(私たちは地球緑化を行っています)という看板が立っていますから、あたかも良いことをやっているかのように見えるわけですが、これにもいろいろ問題があります。 次お願いします 。

これが油やしの実から油を取るための精製工場です。この工場を動かし続けるためには、このまわりにですね、市町村一つのサイズを全部油やしの森に変えないと、この工場は動きつづけることができません。 ですからこの工場があるということは、その周囲が一つの市町村のサイズで全部油やしの森に変えられたことを意味します。 しかもやし油の一つの特徴なんですが、切り落としてから24 時間以内に工場で精製しないといい油になりません。 ですからこの工場を中心にして、近いところに一つの市町村サイズをすべて油やしの森にしないと、この工場はまわっていかないことになるのです。 次お願いします 。

その油やしの森の中にはいろんな人たちが働いていて、この少女はその労働者の娘です。ここはマレーシアですが、インドネシア人の人が働いていました。 なぜかというとマレーシアの人たちはインドネシアに比べると収入が多いので、こんな低賃金のところで働かないんですね。ですからそこで働く人たちはというとインドネシアからの不法入国、または先住民の人たちがこういうところでこき使われることになっていきます。そして彼女は学校に通っていません。

なぜかというと、さっき言った通り一つの市町村のサイズが全部油やしの森に変わるわけですね。そのプランテーションのオーナーがとてつもなく良い人で、プランテーションの中に学校を建ててやったというふうにしない限り、彼女は物理的に学校に通うことができません。 一つの市町村全部が油やしですから。 そして彼女は結局ここで、教育を受けることなく育っていくことになるわけです。親と一緒ですからね、まあ楽しくはあるんですけど。

ところが彼女は当然字も覚えない、数字もわからない。そういう中で彼女は育っていって、大人になった時なにができるか。再び油やしの森で働くこと以外はできません。そのためにですね、こういうプランテーションの中では何世代にも渡ってその仕事にだけついている人たちが暮らしています。ですからそこのプランテーションから出ることのできない人たちが生まれるんですね。 ですからそれを指して “緑の監獄”と呼んだりします。 つまり彼らは一度この中に閉じ込められたなら二度と外に出て行くことができない人たちということです。次お願いします 。

そこで生まれる油とがこのやし油で、これ、実は私たちの暮らしに非常に密着しています。上のほうにサラサラした油、下のほうにドロドロした油が入っています。 この上のほうのサラサラした油、このあと精製してですね、無味無臭無色に変えます。 これがやし油ですね。これは私たちが食べるスナック菓子の油、そしてまたインスタントラーメンを揚げるときの油、ほとんどの食べ物の油に使われています。 それだけじゃなくて医薬品の油、ショートニング、化粧品など、さまざまに使われています。

なぜかというと無味無臭無色に変えてあるので、他の油とブレンドしても他の油の風味を損なわないんです。例えばオリーブ油のような高い油を使うときに、薄め液として使うことができるんですね。そのためにどんどんと輸入されるようになった。しかもこの油は最も値段が安いです。日本でかつて一番安い油というとイワシの油でした。 イワシの油よりも安いですから、いまやこの油のために日本の油のリサイクルが崩壊しています。

日本ではかつて油のリサイクルというのがあって、さまざまに使われた油は、最後に油屋さんに届けられ、そこで精製されて工業用のグリースであるとか洗剤であるとか、そういうものに使われていた。ところが今は新しい油を使い捨てにしたほうが安上がりになってしまいました。 それに加えて日本では公害基準がですね、濃度の規制しかない。総量の規制はないんです。

つまり薄く薄めさえすれば何トン流してもいいんです。 そのために日本では最近になってですね、せっかくキレイになってきた河川のレベルが悪化しだしています。なぜかというと、油のリサイクルが崩壊して、その油を捨てるのに処理費を払わなくちゃいけない。 その処理費を払うくらいなら膨大な量の水で流してしまえばタダで下水にそのまま流せるじゃないか、ということになります。

この下の方に溜まったドロドロした油がありますが、これが日本では工業用の油として、石鹸・洗剤、グリース、その他工業用の油として使っています。 次お願いします。

これはその油やしの森を薬で殺したところの写真です。油やしの実っていうのは、この油やし の木のテッペンのところに実がなります。 それをですね、長い鎌で切り落として、それを集めるん です。 ですから油やしの木が高く育ってくると鎌が届かなくなります。 鎌が届かなくなると植え替えるために、薬で殺してしまうわけです。次お願いします 。

日本では作ってはならない農薬をマレーシアまで出て行って作って売っている

この上のほうに写っているのが枯らしてしまった油やしの森ですね。 そこから川が流れ出ている。 川の水を見て頂いておわかりのように真っ黒ですね。この油やしの森の場合は他の虫や生物がどんどん集まってきます。 それを殺していかないとこの油やしのプランテーションは成り立たないので、危険な農薬をバンバン使います。 農薬・化学肥料以外にも、危険な殺鼠剤(ねずみを殺す薬)、除草剤も使います。 それがこうやって川と一緒に流れ出ていくわけです。次お願いします。

その川が流れ込んでいる先がこの池なんですね。真ん中にある板は何かというと、地元の人たちが洗濯をするための板なんです。そして、ここで水浴びをします。 ところがここに流れ込んでいく農薬というのは実に危険な農薬が使われています。 日本では1970 年代に使用が禁止されたBHCであるとか245T(枯葉剤)であるとかDDT とか、こういった農薬がここでは使われているんです。

そしてそのBHC という農薬を作っている企業が「日本農薬」というマレーシアにある会社です。もちろん日本の会社です。日本では作ってはならない農薬をマレーシアまで出て行って作って売っているわけですね。日本では農薬を撒くときには防護服、宇宙服のような服を着るんですが、ここの国では非常に不幸なことにあまりにもクソ暑いので、そんなものを着ることができません。

みんなT シャツ一枚で撒くんです。なおかつ不幸なことに、農薬を撒く仕事っていうのは楽だっていうことで、女・子どもの仕事になっている。ですから女性・子どもがその農薬を撒きます。そして皮膚に付きます。 それで皮膚から吸収されていきます。 その影響ですが、「農薬行動ネットワーク」というNGO がマレーシアにありますが、そこが一度調査をしました。90 年前半です。その結果、マレーシアのプランテーションでは全女性の90%以上に何らかの農薬の被害が出ていました。

さらに不幸なのは、まだそれは環境ホルモンの問題が出て来る前の話なんです。今言ったBHC もDDT も245T も環境ホルモン物質ですし、日本でいっぱい使われているその他の農薬も、ほとんど環境ホルモン物質です。ということは、その次の世代まで考えていくと、恐らく農薬被害は100%以上の人たちに影響を及ぼしているということになると思います。 そしてその農薬が流れ込む池の中で地元の人たちは水浴びをせざるをえないのです。次お願いします 。

この油やしの森を作る時っていうのは考えてみると分かるんですが、木を全部いったん切り倒さないとプランテーションを作れないんですね。だからそのプランテーションを作るために、先ほど言った通り一つの市町村サイズ全ての木を全部切り倒して、乾かした木をさらに石油をかけて燃やすんです。その後に段々畑状の整地をして、そこに油やしが植えられていくんですね。ですから油やしが植えられているところでは、途中ではこんな月面のような状態の土地が生まれるんです。 ですから地元の先住民の人たちはよく言うんです、「伐採のほうがまだましだった」と。

熱帯林伐採の時にも、どんどん伐採されていきますが、それでも業者は売れそうな木を探して売ってしまうとその後いなくなる。その後30 年くらい経つと森は再び元の通りに戻る。そしてそのその業者がいなくなれば、壊されてしまった森にも動物達は戻ってきます。ですからその動物を捕れば食べていくことができる。ところがこういうふうに丸裸にされてしまうと、もう先住民の人たちは生きていくための実の成る木を探すことも、動物達を捕ることも一切できなくなります。

よく日本で勘違いされることですが、「マレーシアの森の中に住んでいる人たちってどれくらい飢え死にするんですか」なんていう質問が時々出ますけれども、全くいません。森があるときには誰一人飢えない。なぜならば森の中には、食べられる木の実が山のようにあります。森の中には食べられる動物がいっぱい棲んでいます。 ですから全く飢えないんですね。 ところが森がこうやって失われてしまうと人々は飢えるようになっていくわけです。次お願いします。

その先住民の人たちは、こういうふうにプランテーションにさせられてしまった土地に住むことができなくなりますね、食べ物がなくなりますから。 そうすると彼らはどうするかというと、そこのプランテーションでさっき言ったような低賃金の労働者となるか、もしくはこの都市のスラムに出て行って暮らすか、その二つに一つの方法しかなくなってしまう。

プランテーションとスラムでは子どもが増えていくという現象が起こる

そしていま地球上で人口爆発とかいわれていますが、人口爆発の96%は途上国、しかしその途上国の中で人口爆発が起こっているのはたった二つに限られています。『土地なし農民』と『土地なし都市住民』、もっと簡単に言うとプランテーション労働者とスラムです。ここでだけ人口が増えています。なぜかというと、こういうところに暮らすには、結局頭数が勝負なんです。

子どもは六歳から働きます。六歳になれば車の窓拭きをやったり、新聞を売ったり造花を配って売ったりして暮らします。ですから頭数が多ければ収入が多くなるんです。ところが生活費のほうは頭数が増えたとしても、例えば二人が三人になったら二倍が三倍になるかというとそれほどは増えないんですね。

つまり生活費のほうはそんなには増えないけれども、収入のほうは頭数に応じて増えていく。ならばどうやったら安定して生活できるかというと、頭数を、一家族あたりの頭数を増やしていくのが一番生活の安定につながる。

そのためにプランテーションとスラムでは子どもが増えていくという現象が起こるだけのことなんですね。ですから人々を土地から追い立てた結果として人口が増えているんであって、開発を進めれば人口が増えなくなるということはありえません。開発するから人口が増えるんですね。次お願いします 。

これはマレーシアの森の奥深く入ったところの写真ですけれども、こんなキレイな川があるんです。これ学者でもよく言うんですが、熱帯雨林地域には澄んだ川はないんだと言ったりするんですが、嘘です。澄んだ川はあります。

なぜ濁っているかというと、伐採してしまったがために土が流れ込むから汚れるんです。これはまだ伐採されていないところの川です。そこでは全く澄みきった、透き通った水が流れ出ているんですね。 ところが学者ですらが実態を知らない。そして嘘を言う。今やそういう状態に変わってしまった。 こういうふうな風景を見ることができるのは恐らくあと十年位だけだと思います。 次お願いします 。

その先住民の人たちの住まいというのは、こういう感じなんです。 森の中に抱かれるようにして彼らの家があります。 そしてここの森の中には果樹、果物のなる木がたくさんあって、その果物を採りさえすればいつでも食べられるという暮らしを彼らはしています。 川も流れていて魚もいっぱいいるし、亀だの蛙だのいろいろいます。 ですから彼らは必要以上のものは捕らないという暮らしをします。 なぜならばいつでも食べ物に囲まれているからです。ところがこれが壊されていってしまった。 次お願いします 。

「飢餓輸出」“日本人食用専用 地元民食用禁止”
  ──豊かな土地であるというのに、多くの人たちが飢えて死んでいきます

壊されてしまって彼らは飢えるということになってしまったのです。今度は場所が変わりましてフィリピンのミンダナオ島です。フィリピン・ミンダナオ島のバナナのプランテーションですね。 ここにバナナが植えられる理由は日本が買うからです。日本への輸出基地としてここがプランテーションに変えられてしまった。 もともとミンダナオ島っていうのは先住民の島で、先住民が持っていた土地です。

ところが今この土地に行くとですね、このミンダナオ島の面積の半分以上をプランテーションが取ってしまっています。 ここは、実に意外なことに非常に豊かな肥沃な土地なんです。ところがそこにいた人たちは全て追い立てられ、そしてまた撃ち殺され、そしてその後にプランテーションが出来上がっていってしまったわけです。次お願いします。

その豊かな土地であるというのに、ここミンダナオ島では今でも多くの人たちが飢えて死んでいきます。 なぜなら土地をもっていないから、自分達のための作物を作ることができないからです。

これは収穫してきたところのバナナですね。このバナナを運ぶのも機械で運ぶこともできるんです。ところがここは日本に輸出する、日本人はちょっとでも傷ついていて黒くなっているバナナは絶対に食べません。 ですから機械で運ぶとぶつかったりして多少黒くなる可能性があります。そのためにですね、バナナの一つの房というのは20〜30Kgあります、それを全部肩に担いで手で運ばなければならない。そしてこれが集められてきたところです。その後この薬品のたっぷり入ったプールの中に浸けられて殺菌されます。次お願いします 。

そしてそれが箱詰めされて送られていくわけです。ここにはメーカーの名前も入っていますね、よく見ると。このバナナを一つの箱に詰めると12 Kgも入るんです。 最初にバナナを植えて、育てて、収穫して、途中で殺菌をして、ここの箱に詰めて、それで終わりじゃないんです。箱に詰めた後トラックで運んで輸出する船の中に積み上げるところまでが彼らの仕事です。そして一箱に12 Kg入ったバナナを、彼らは一箱いくらで売るかというとたった100 円です。そのたった100 円の中からですね、農薬の費用、そしてまた肥料の費用を天引きされてしまいます。

ですから彼らの手元にはほとんどおカネが残らないんです。 そしてもし彼らの労働力を賃金に換算したとするならば、彼らは一銭ももらってないことになると思います。 そしてまた日本人がバナナを買うときの値段から見ると、彼らが受け取っているおカネというのは私たちが100 円払う中の一円以下です。

それしか彼らは受け取ることができないんですね。 ですから貿易の中で、モノの貿易が多いとかいいますけれど、あれは嘘ですね。 貿易の物の代金として払っているのは1%で、残りの99%は運ぶ費用であるとか商社の費用であるとか、つまりサービスの部分にカネが払われているわけで、モノの貿易というは今やほとんど絶滅したと言っていい状態になっています。 でも、彼らは辞められない。なぜなら自転車操業だけれども、これをやらないと彼らは生きていくことすらできなくなってしまう。

ここに働くことすらできなくなったらどうしたらいいのか。土地も全て取り上げられてしまっていて彼らの作物を作ることはできません。 彼らは結局飢えて死ぬか、飢えが原因の病気で死ぬしかありません。彼らはですからタワワに実ったバナナの脇でですね、飢えて死んでいくんです。そこには看板が立っていませんけれども、もし看板を立てるのであれば“日本人食用専用 地元民食用禁止”と書かれることになりますね。 こういうのを「飢餓輸出」、飢餓を起こしてまで輸出するという意味で「飢餓輸出」と呼んでいますが、そういう状態があって私たちの暮らしが成り立っているというような状態になっています。次お願いします 。

これがですね、油やしのプランテーションを造る途中の段階のところです。真ん中に小屋がありますね、あれが先住民の暮らしているロングハウスと呼ばれる長屋なんです。さっきのスライドを思い出して欲しいんですが、緑に抱かれるようにしてあったのが先住民の村でしたね。ところが緑が全部ぶち壊されてしまったんです。先住民の小屋というは普段は森で見えないものなんです。ところが丸裸にされてしまったので露出してしまった。

ここに暮らしている人たちは一所懸命反対しました。 ところが土地は勝手に取り上げられてしまって、そして彼らはここに暮らすことができなくなった。ここに住んでいる彼らは、この後プランテーションで働くかスラムに出て行くか、それしか方法がなくなってしまったという状態です。 さて、これでスライドの方を終わりにしたいと思います 。

今のスライドを見て頂いてですね、私たちの暮らしの向こう側にあるものというのはどれほど重いものがあるのかということがお分り頂けたんではないかと思います。同じようにですね、私たちはいつも、ゴミ問題であるとか、そういうようなことを考えるときに、とかく私たちの側でしか問題を考えていないんですね。これをちょっともう一度考え直してみたいんです。

“8 ”入ってきて“1 ”しか出さないんですから、日本には毎年“ 7 ”の資源が溜まっていくことになりますね。
──これがゴミ問題です

先ほど言ったように、私たちは地域でゴミ問題をやり始めたところから、リサイクルをやり始めたところからこういう問題に関わっていきました。 リサイクルを始めた頃は非常にうまくいきました。 どんどん参加する人が増えて、リサイクル品を出してくれる人の数も、最初の月が10 件だったら翌月は20 件、翌月は40 件、その翌月には80 件、倍々ゲームのように増えていく、だから、これは非常にうまく運動になると私たちは思っていた。

ところが実際にはうまくいかなくなりました。なぜかというとリサイクル品の価格が落ちていったからです。我々リサイクルを始めた時、アルミは1 Kg=130 円で売ることができました。ところが今の時点で言うと30 円でしか売れません。 その頃アルミのリサイクルをしているとですね、車‥もちろん自家用車を出してリサイクルをするんですが、この車のガソリン代くらい出せたし、昼飯くらいはうまくすれば皆で食うこともできたし、余剰のおカネも集まったからいろんなNGO に寄付したり、そういうこともできたんですね。

ところがみるみるうちに値段が下がっていってしまって、今の時点で言うならばガソリン代すら出ないという状態に陥っています。こういう状態になってしまうとリサイクルをしても「くたびれもうけの骨折り損」ということになっていくわけです。 不幸なことに、リサイクルが叫ばれて、あちこちでリサイクルがされるようになっていった90 年以降、こういうふうにどんどん値段が下がっていったんです。

ところがリサイクルを支えていたのは、町内会が自分たちの町内会費を浮かすためにやっていたり、少年野球チームが自分たちの費用を作るためにやっていたり、ボーイスカウトが自分たちの費用を作るためにやっていたりするのが主流でした。

ところがその人たちにとってみると、こんなに値段が下がってしまうとやっても収益にならないわけですね。そういう中で結局、町内会もボーイスカウトも少年野球チームも、リサイクルをどんどんやめていきました。ですから人々が「リサイクルはすべきだ!すべきだ!」と騒いでいる頃、リサイクルはどんどんとされなくなっていったんです。

私たちはこんなふうに値段が下がっていってしまうと、リサイクルはダメになってしまう、だからリサイクル品の値段がどんどんと上がっていくべきなんだと思っていました。なんでこれほど下がってしまうんだろうと調べ始めたのが、私たちが世界的な資源問題を調べていくきっかけになりました。

調べてみるとリサイクル品のアルミ価格は、実は新品のアルミ価格と全く並行して値段が下がっていたことがわかりました。 当時新品が1kg あたり250 円していたのに、現在は1Kgあたり100 円ちょっとまで下がってしまいました。並行してリサイクル品のアルミ価格は1 K=130 円から30 円へと下がったのです。新品の価格と全く並行する形でリサイクル品の値段も下がっていくことに私たちは気がついたわけです。

この新品の値段が下がっていく限り、我々のリサイクルはできなくなっちゃう。ではこのリサイクル品の値段を下げている原因である新品は、一体どこから送られてくるのか、さらに調べてみる気になりました。私たちはアルミをリサイクルしていましたのでアルミについて調べてみたんです。

アルミが送られてくる国は、例えばオーストラリアとかもありますけれども、近年非常に日本に輸入する量が増えている国がいくつかみつかりました。一つはインドネシア、一つはブラジルでした。 そこから来る品が非常に値段が安かった、そのためにどんどんと新品の値段が下がっていくんだなということが分ったわけです。

私たちはこれを、少し図式的に考えてみました。 図式で考えてみるとこういうふうに見ることができるんですね。 物が生産されて利用されていって、最終的に廃棄される。そして廃棄されていった先が日本の場合非常に貧困なことに三つしかないんです。 埋めるか、燃やすか、海に捨てちゃうか。 「焼却」「埋め立て」「海洋投棄」といいますが、その三つしかないんです。

こんな乱暴な国は珍しいですが。燃やせばダイオキシンが出てきます。 もちろん二酸化炭素も出てくる。日本全体の二酸化炭素排出量の3 %がゴミ由来です。 そしてまた、土の中に埋めてしまうと今度はメタンガスが発生します。 メタンガスは二酸化炭素の20 倍の温室効果を発揮します。また海に捨てればもちろん海を汚します。 ですから、例えば地球温暖化防止の「気候変動枠組条約」であるとか、また「ロンドン・ダンピング条約」といって海洋投棄を規制する条約がありますから、そういう条約から見ていくと日本のゴミ処理の方法は落第ですね。 ところがどんどん捨てられています。

私たちとしては何とかこのゴミをもう一度生産のところに戻してやりたい、これがリサイクルなわけです。 ところがこのリサイクル品は、新品の値段がどんどん下がっていくために太刀打ちできなくなっています。 これを図の中に書いてみると、こういう形になります。こっち側から新品が入ってきて、その値段がなんとリサイクル品より安い。 安いだけでなく質の点でももちろん新品の方が質が高い。 リサイクル品の方は他の物が混じっちゃいますから質が悪い、もしくは混ざり物を全部取るとしたらコストがかかりすぎるので値段が高くなってしまう。

だから常にと言って良いくらい新品の方が安いんですね。 日本に入ってくる時に新品の値段があまりにも安いということは、ここに生産者がいて、工場長さんがいたとします。 工場長さんがどっちを買おうかなと迷っていたとします。 どっちが安いか、新品が安いですね。どっちが質が高いか、新品のほうが質が高いですね。 そうするとその工場長がいかに環境に理解があったとしても、競争上リサイクル品を買うことができなくなります。 そうすると仕方がないから新品を買うか、ということになっちゃいます。新品を使い捨てた方が安くて、リサイクル品は高くて買ってもらえないために、ゴミとして捨てられることになっていきます。

その新品資源を輸出してきているのが何処かと調べていくと、その多くが発展途上国からの輸出品なわけです。日本は海外に輸出過多で貿易黒字ですね。金額の上では。おカネのバランスでは日本は黒字ですが、重さのバランスではどうでしょう。その重さのバランスから言うと輸入過多でして、入ってくるのが8 に対して日本から出ていくものは1 しかありません。 “8 ”入ってきて“1 ”しか出さないんですから、日本には毎年“7 ”の資源が溜まっていくことになりますね。これがゴミ問題です。

日本の中で輸出と輸入のバランスが全くとれていないがために、毎年毎年国内に資源が溜まっていってしまう、これがゴミ問題です。実際にそれを数字で見てみましょう。毎年7 億t という資源が日本に入ってきています。 その中の4 億t は、石油・石炭とかガスでして、燃やされて二酸化炭素になって大気中に飛ばされていきます。 固形物が3 億t 残ります。 この固形物である3 億t がどんどんと溜まっていってしまうわけです。

これを環境庁や政府が言っているように、じゃあ全量をリサイクルしようというふうにやったとします。そしてそれが成功したとします。 しかし政府は輸入量を減らすつもりが全くないんです。 なのに全量リサイクルが実現したらどうなるか分ります?つまりリサイクル品が毎年3 億t 利用されなくちゃいけない。ところが輸入されてくる資源の量は変わらないままですから、次の年には新品3 億t にリサイクル品3 億t 、合わせて6 億t の資源を、私たちが無駄に使わない限り全量リサイクルは成り立たないですね。

その翌年はというと、もう3 億t 使わないといけないですね、つまり私たちは限りなく消費を増やし続けていかない限りこの全量リサイクルはできない、ということになります。ですからこのやり方自体もう発想が間違っているし、解決不能なやり方なんですね 。

リサイクル資源を途上国に送ってしまったための悲劇
 ──全地球上でリサイクルが崩壊

これを解決するためにはどうしたらいいかというと、輸入と輸出量のバランスですね、これを取れるような形にしなければ絶対に解決できないんです。ところが日本ではどんどんリサイクルだけを進めました。 しかし売れないですからリサイクル品が毎年ボンボン溜まっていきました。これを処理するためにですね、リサイクル業者さんは非常に困ってしまって、この資源自体を売る事にしたんですね、他の国に。 途上国は資源に困っているので売れるだろうということで、途上国に送ってしまった。

例えば古紙であるとかアルミであるとか、PCB 入りのトランスや塩ビの電話線までも輸出したんです。ところがですね、このこと自体が非常に大きな悲劇を生みます。途上国ではさっきスライドで見たように、スカベンジャーの人たちがリサイクルをしていたんですね。彼らの一番の収入源は何かというと古紙でした。 紙のリサイクルが一番の収入源だったんです。

ところがそこにタダ同然の値段で同じ紙ゴミが輸出されてきた。そうするとスカベンジャーの人たちが拾ってきた質の悪い、しかも値段が高い紙を誰が買うか、当然この送られてきた紙を使った方が安いじゃないか、ということになる。そのために途上国の中で行われていたリサイクルが崩壊させられました。

ただしここで言っておかなくちゃいけないのは、日本のこの古紙業者ですが、この人たちは世界的に見ても非常にまじめで良心的な業者さんたちでして、日本から輸出するときは相手の国の市場をちゃんと調査して、市場の値段が暴落しないように努力しています。なぜならば彼らも同業者だから、そのことについてよく分っているんです。

途上国のリサイクルを崩壊させたのは誰かというと、オランダ、ドイツ、デンマーク、いわゆるリサイクル先進国といわれるところの国々からの輸出品です。なぜか?途上国があまりにも安く先進国に資源を輸出して来るという構造はどこの国でも一緒です。ですから先進国は全部このゴミ問題に悩むことになります。そしてとりわけまじめにリサイクルしようとしている国ほど、どんどんリサイクル品が溜まって消費しきれなくなるという構造になります。 そのために、そのゴミを輸出しちゃえとなるわけですね。

その結果としてどういうことが起きたか。 全地球上でリサイクルが崩壊したんです。経済的に成り立っていたリサイクルは、先進国の場合、途上国から来るあまりにも安い資源によって崩壊しました。 途上国の方は先進国が集めたゴミをタダ同然の値段で輸出してくることによって崩壊しました。 そのおかげで、世界中で経済的に成り立つリサイクルは崩壊するという構造になっています。

今、成り立っているのは税金を無駄食いして、無理やり使わせているリサイクルだけです。こんな構造になっていたんです。 この構造自体が非常に問題じゃないかというふうに私たちは思いました 。

途上国の側からすると、物は持っていかれる、その代金は借金の返済に充てられて日本にまた戻っていってしまう 
──ODA というものは、途上国の資源を日本に奪ってくるために出すもの?

私たちはさらにまた、しつこく調べました。 このアルミを作っている途上国はどうやって作っているんだろうと。アルミというのは実は電気の缶詰と呼ばれるほど電気を使います。 1g あたり20W近くも使います。 膨大な電気を消費するんですね。 全世界で電気を作るときに一番安く電気を作る方法は何か。ダムを造る方法です。そしてこのダム造りに対して日本から政府開発援助(ODA)がダムを作るために出されている。

ところがODA 援助と言われると、皆さん当然タダで物をあげているというふうに思うでしょうね。 ところが日本の場合、ODA のほとんどは金貸しです。金利が安いだけでカネを貸しているのがODA です。二国間援助(二つの国の間での援助)の67%が金貸しです。日本の援助全体、国際機関とかに払うカネも含めても50%以上が金貸しです。つまりカネを貸しているだけなんですね。 そのカネを貸す先にダムを造らせるという形です。

そして日本ではODA を出す時の理由としてよく、「途上国の人たちだって電化された暮らしが必要じゃないか、彼らの暮らしを良くするために電気を作り出すんだ」と言いますね。 アルミを日本に輸出してきていたブラジルの場合にはツクルイダム、インドネシアの場合にはアサハンダムというダムが造られました。しかし、いずれの場合もそこで作られた電気のほとんどがアルミ精錬のためにだけに使われています。

アサハンダムの場合で、地元で使うことができる電気は1%ですね。しかも電気の性質上、例えば私たちは高圧線のままでは電気は使えないですね。変電所を経てどんどん細かくしてもらって100V の電気にしてもらわないと我々は使えないんです。 その変電所のコストが非常にかかります。結局送電ロスを避けるためには、電気を消費するところまで一気に高圧で飛ばして、消費地で変電所をつけて細かく100V まで下げていかなくちゃいけないわけですね。

そのためにダムの周辺の地域は未だに電気が届いていないんです。それは全部都市に一気に送られちゃう。ダム周辺は未だに無電化地域です。何が「僻地の人たちも電気が必要」なんですかね。彼らの地域では今でも無電化のまま電気は届いていません。 その電気は都市に送られて、しかもその99%はアルミに化けちゃって、このアルミがですね、全量日本に送られてきていたんですね。そしてインドネシアの場合、とりわけ不幸なのはアルミの精錬工場はあります、でも加工工場がなかった。

つまりアルミをインゴットの形では持っていられるけれども、缶にしたりアルミホイルにしたりする加工工場が一つもなかったんです。 だから全部売るしかない。 その輸出先は100 %日本でした。その全量輸出といくという構造の中で、インドネシアはこれに輸出関税を付けたかった。多少でも税金をかければインドネシアの国の収入になります。 またこの値段を高くしたかった。しかしアルミの値段は日本の側の商社が思いのままに決めています。 そして輸出関税も日本に拒否されます。

そのためにですね、結局アルミはタダ同然のような値段で送られていってしまった。もちろん日本の側だってアルミを輸入したからにはその代金を払わなくちゃいけないですね。しかしその代金は、一旦は払うんですけれど、途中で『金貸し援助』ですから、それの返済に充てられちゃいます。 つまり途上国の側からすると、物は持っていかれる、その代金は借金の返済に充てられて日本にまた戻っていってしまうという構造です。

途上国とは、これ正確に言うと「工業発展途上国」ですね。つまり工業が発達していないので、彼らは工業製品が作れないからこそ途上国と呼ばれます。 その途上国にとって売り物は何か?工業製品が作れなければ『原料』しかないということになります。 この原料を輸出するしかないんですね。 そこの国に『金貸し援助』をするわけです。

しかしインドネシアの通貨なんかで返済されても困るので、ちゃんと円かドルかマルクなど、いわゆるハードカレンシーと呼ばれる強い通貨で返済してもらわなくちゃいけないわけですね。 つまり、この国に輸出させない限り借金は戻ってこないのです。

ということは、日本から金貸し援助をするということは、この国に輸出させるものを作らせる以外に方法がない、ところがこの国は途上国なんで原料しか売るものを持っていない。そしてその原料を世界一輸入する国は何処ですか?この日本です。鉄でもアルミでも、ほとんどの資源を最大に輸入しているのは日本ですね。そうするとどうなるでしょう。このODA というものは、途上国の資源を日本に奪ってくるために出すものだという構造にどうしてもなりますね。

わざとかわざとじゃないかは知りませんけれども。 どっちにしたところで日本は原料を一番輸入する国です。そこの原料しか作るもののない途上国にカネを貸し付ける以上は、そういう構造になっていくことになります。 この結果日本にですね、援助の強みで非常に安い値段で資源が届いてくるという結果を招きました。 ですから、これが一つ目の我々が地域でリサイクルできないことの理由なんですね。

ODA が出されていって、それによって安く資源が取られてくるという構造になっている。先ほど見た紙の原料であるユーカリの植林、あれにも日本のODA が出されています。鉄の輸入に関してはブラジルからの輸入が増えていますが、これは大カラジャス計画という日本のODAのプロジェクトが行っていて、そこで作らせた精錬された鉄を日本が輸入しています。つまり、日本のODA が出された結果として、安く資源が届いてくるという構造です。ですから一つ目にはこのODA を何とかしなくちゃいけないということが私たちの思ったことです。

なぜ金貸しなのか? 日本のODAは国民の貯金を使っているから
 ──このようなカネのプールの仕方をしているのは日本だけです。

ちなみに言っておくと、このODA のおカネですね、なぜ金貸しなのか?税金で集めたおカネであれば、返してもらう必要はないんです。 ですから他の国ではほとんど金貸しではありません。なぜならば税金で集めたおカネで援助していますから返してもらう必要はないんです。ですからタダであげます。

ところが日本の場合、税金で集めたおカネはかなり少ない。 ところが日本の場合、貿易黒字国ですから「なるべく援助しなさい」というふうに言われているわけですね。「じゃあ、どうやったらいいだろうか?」というふうに考えて「そうだ!」ということで気がついたのが郵便貯金、年金、簡易保険を集めたいわゆる『財政投融資(財投)』と呼ばれる国の管理する国民の貯金です。

郵貯がこんなに巨大化したのは日本だけですよ。 他の国の郵貯を見てみても、こんな巨額のカネを集めている国は他にありません。そしてそのおカネを使っているから金貸しになるんですね。 今日はあまりそこについて触れるつもりはないので、いま紹介しちゃいますと、日本が第二次大戦、いわゆるアジアの侵略戦争をやった時の資金源の八分の七は郵便貯金でした。ですから郵便貯金に人々が預けていなければ、あんな戦争はできなかったんです。

そして現在のODA のおカネ、金貸しになっているODA のおカネは、やはりこの『財政投融資』、郵便貯金・年金・簡易保険ですね、このおカネが使われています。 それだけじゃありません、日本の国内でありとあらゆる環境破壊の資金源は、この郵便貯金を中心とする財投のおカネです。例えば長良川河口堰が作られる。

これは水資源開発公団というのがやっていますが、これは今言った財投の機関です。そしてまた日本で原発が作られます。その時の資金は日本開発銀行(これは古い名前です。現在は『日本政策投資銀行』)というところがカネを貸しています。 この日本開発銀行がカネを貸しているおかげで原発を作ることができるわけです。またリゾート開発をする時にも日本開発銀行がおカネを貸しています。 ダムを作る時でも道路を作る時でも成田の空港を作った時でも、全ての資金源はこの郵便貯金を中心とする財政投融資だったんです。

郵貯は戦後、崩壊しまして、一律三分の一カットされちゃったんです。戦後になって、戦争の費用に使われて三分の一が戻ってこなかったのが郵便貯金の実際なんですね。ところが、にもかかわらず郵便貯金は未だに『安全・確実・優位』ということでですね、安全であったことも確実であったことも優位であったことも一度もないのに。そしてこの郵便貯金のおカネは、今や全世界のありとあらゆる環境破壊の資金源として使われています。人権侵害もそれによって起こしています。

このようなカネのプールの仕方をしているのは日本だけです。日本人は不思議なことに、戦争で懲りなかったようですね。 懲りていてくれれば郵便貯金も崩壊したんでしょうが、日本の場合それでも確実だということで、どんどん郵便貯金を未だに増やし続けている。そうすると「どうなるかな?」って考えてみると、いずれ日本の経済、あとから話しますが、崩壊するような状態になっていきます。 その時にどうしたらいいか?日本が他の国を侵略しちゃうのが一番手っ取り早い解決方法ですね。 その時の資金としてもう一回使われるんじゃないかなというふうに思えます。

にもかかわらず、日本人は楽天的に郵便貯金に預け続けているんですね。 これを続けていると、未来は絶対に良くならないだろうと思いますけれども、ところが日本人の場合、それまで郵便貯金にそういう歴史があったこと自体をほとんど調べる人もいないし、忘れ果てていた。

私は調べて本にしたわけですけれども、過去についての反省は全く聞かれないという状態になっています。今も尚、実は郵便貯金には軍事郵便貯金と外地郵便貯金というのがありまして、植民地にしてしまったアジアの人たちの口座を未だに抱え込んでいます。 二千万人分あります。東京都民の約2 倍ですね。

二千万人分のアジアの人たちの口座を未だに持ったまま返していません。 そのおカネが戦後になると、経済侵略のための資金として使われたわけです。 警察予備隊、今の自衛隊を作る時の資金源もそこから出ていますし、この資金源をきちんと見るということが、どうしても必要なことではないかというふうに思っています。

IMF (国際通貨基金)の凄まじい脅かし

その話はさておき、リサイクルができなかった理由の一つ目は今言ったように日本のODA が関わっている。日本のODA が資源を奪うために出されて、徹底的に安い値段で持って来ちゃっているからということでした。 ところがもう一つ気づいたのが、このグラフなんです。

原料の値段というのは現在に至るまでどんどん下がり続けています。 その時にですね、反比例する形でどんどん増えているものがあります。 それが途上国のところに累積していく債務(借金)ですね。途上国の方の借金が増えていくと、途上国の売り物である原料の値段が下がっていく、という反比例のグラフですね。 何故このようなことになるんだろうかと非常に不思議に思いまして、それで私たち、また調べてみました 。

一つ大きな出来事が82 年に起こっています。 それはメキシコがですね、いっぱいおカネを借りたんだけれども、ついに借金が返せなくなっちゃった。誰かにカネを貸してもらえればそのおカネで借金の返済ができるんだけれども、誰も貸してくれなくなっちゃった。だからメキシコは82年に、じゃあ自己破産したい、もう破産しちゃいたいということで、『一方的債務免除』、これを「デフォルト宣言」といいますが、一方的に借金を免除してくれと宣言しようとしました。

ところがその当時、このメキシコであるとか途上国にですね、カネを貸していたのは誰かというと、欧米そして日本の民間銀行でした。なぜそれらの銀行がカネを貸したかというと、そのちょっと前にさかのぼるんですが、オイルショックがあって石油の値段がグンと上がったんですね。それによってアラブの石油王はどんどんカネが儲かってしょうがないというくらいにカネが莫大に集まりました。

ところがアラブのイスラム教の中では、金利を稼ぐことを禁止されています。ですので彼らは自分でそのカネを運用することができません。 それで彼らはですね、自分たちの国の銀行で運用することはできないですから、欧米の銀行に預けちゃった。 欧米の銀行はアラブの石油王からの預金をドンと預けられたんですけれども、貸出先がないんですね。 オイルショックの時期ですから国内の産業は不況でみんなもう潰れかかっています。

そんな時にカネを借りたいなんてヤツはいないんです。 どうしようかと悩んでいた時にですね、世界銀行というのがありまして、通称“世銀”(せぎん)と呼ぶ国際機関(国連ではありません)ですが、この世界銀行というところが「じゃあ途上国に貸し付けたらいいよ」ということで音頭をとって、その民間銀行のおカネをどんどん途上国に貸し付けちゃった。

それが世界銀行の話通りなら、カネを借りた途上国は儲かるはずだったのですが、儲かった国は一つもありませんでした。 全然儲からなかったおかげで、もう借金の返済の見通しがつかないというような状態になった。 そして82 年に、もうメキシコが「返せません」という状態になったんですね。

これでつぶれてしまうと途上国は続々と自己破産するでしょう。そうすると先進国の銀行が軒並み潰れちゃうことになります。 今から考えるとその時つぶれていてもらった方がよっぽど良かったんですが、潰れなかった。なぜ潰れなかったかというと、その時にですね、メキシコを黙らせたんですね。IMF (国際通貨基金)というものがありまして、たとえばかつて「1 ドル360 円」の固定相場だったんですが、固定制だったのはなぜかというと、このIMFが決めたことでした。

というのは戦後に作られたこの「世銀とIMF 」というものはですね、自由貿易そして国際経済の安定を目指していて、通貨の安定についてはIMF がやることにしたんですね。ドルを国際通貨の基軸通貨として、そしてそれぞれ固定のレートで決めましょう、日本の場合には360 円が1 ドルですよ、と決めていたのがこのIMF だったんです。ところが1971 年に“ニクソンショック”というのがあって、ここから変動相場に変わるんですね。今と同じように、今日は122 円、明日になると100 円というふうに毎日毎日動く変動相場制になった。

それがニクソンショックだった。 ニクソンショックのあった71 年以降、IMF は変動相場制になったのでもういらない機関になっていました。もういつつぶれてもらっても構わない、何にも役に立たない、盲腸のようなものになっていたんです。ところがこのIMF に、さっき言ったメキシコ危機の時に銀行が集結するんです。

銀行がIMF に集結して、IMF が銀行の代わりにメキシコにおカネを貸し付けました。 メキシコにおカネを貸し付けるわけですが、その時に凄まじい脅かしをします。もしあなたの国が一方的に返済をしないなんてことをやるならば、あなたの国の飛行機がどっかの国に飛んできたらその場で差し押さえます。あなたの国の国民がどこか他の国の銀行に預金を持っていたならば全て差し押さえです。あなたの国からモノが輸出されてくれば全て差し押さえです。

つまりあなたの国は国際経済から完全に切り離されますけれども、それでもいいんですか。あなたの国民は自国から外に出ることはできなくなりますよ、というふうな脅しをかけます。その一方でIMFはですね、だからつまらないことはしようとせずに、私がカネを貸してやるから黙りなさいと圧力をかけます。結局デフォルト宣言をする当日になってメキシコ大統領はIMF に黙らされるんですね。 それによってIMF は債務危機に陥った途上国にカネを貸し付けました。

おカネを貸し付けるときは誰でもそうですが、条件をつけますね。 その条件としてつけられたのが、非常に大事な言葉なんですが「構造調整プログラム」というものなんです。この構造調整プログラムというものは何かというと、「あなたの国の社会構造を調整して借金を返済できるようにしましょう」という借金返済のためのプログラムです。

それが融資の条件としてつけられている構造調整プログラムです。この構造調整プログラムという言葉はですね、私たち押し付けている側の先進国の人間は知っている人が少ないですが、途上国の押し付けられている人たち聞くと大体どんな人でも知っている言葉なんですね。

この構造調整プログラムでどんなことが押し付けられるのか、大雑把に言います。三つあります。

一つ目は通貨を切り下げる、つまり日本が受けるとするならば円安にするということですね。そうするとどうなるか?円安になると輸入品が高くて買えなくなります。 一方で輸出する品物は安く輸出できるようになります。そうすると輸出がどんどん増えて輸入が減りますから、貿易は黒字になります。 貿易は黒字になりますから、そのおカネで借金を返しなさいというのが一つですね。

二つ目は歳出削減、その国の支出を徹底的に削ぎ落とします。 切られるのはどこの国でも一緒で、必ず福祉・教育・医療がばっさり切られます。福祉に使うようなカネがあるのなら借金返せ、教育や医療に使えるようなおカネがあるなら借金返せ、身ぐるみ剥がして借金返済にまわさせます。

三つ目に、生産を売れる商品(輸出商品)作りに変換させます。 日本がもし構造調整を受けたならば、米の生産をやめさせられますね。なぜならば『米』ってみんな日本人が食べちゃうんですから円しか稼がない。 ドルを稼いでくれないと返済に使えないんですね。 ということは、国民が食うようなものは作っても意味がないことになるんです。そんな土地があるならば、他の国に売ることができる綿花なりコーヒーなり紅茶なり小麦なりユーカリなり、そういった他の国に売ることができる商品作物を作りなさい、変えなさいと圧力をかけることになります。これで売るものができれば売った分のおカネが入ってきますから、そのおカネで借金返しなさいということですね。

大豆ならいくらでも日本が買うから、ブラジルでは国民の79%が十分な食料が得られません

この『構造調整プログラム』によって、世界はとてつもなく深刻な事態に陥りました。なぜ深刻な事態に陥ったか、債務国第一位のブラジルで見てみましょう。 ブラジルでは現在国民の79%が十分な食料が得られません。 飢えて死ぬという人たちは少ないですが、それでも十分な栄養が取れないという人が79%に及びます。 なぜか?ブラジルにはそらまめ大の豆がありまして、この豆が伝統的な食品になっています。

ところがこの豆はいくら作ってもブラジル人がみんな食べちゃうんです。 そうするとドルを稼がない。そうすると借金の返済に充てられない。 現在、その畑は全部つぶされて大豆畑になっています。 大豆ならいくらでも日本が買うからです。そうすれば日本の円が稼げます。 円は強い通貨ですから借金返済に充てられます。

そのためにですね、彼らの食べていた豆の畑は全部つぶされて、全部大豆畑に変わっちゃったんですね。 じゃあ彼らは何を食べたらいいのか。自分たちの食べていた畑はなくなってしまったわけですから、一体何を食べたらいいのかということになります。その時にアメリカが、今も『ダンピング輸出』で非常に安い値段で売っている穀物があります。

トウモロコシだとか小麦だとか大麦だとか。これらのものはアメリカで生産のためにかかっている費用よりも、はるかに安い値段で輸出されています。 じゃあこれを買おうということになります。ところが最初に言った「通貨の切り下げ」がされているので、今まで100 円で買えていたものが通貨が下がって1000 円とかに上がっちゃうんですね。買えないんです。

そしてかつて、構造調整による歳出削減がされる前までは、都会の人たちが暴動を起こすといけないので主要な食料については補助金をつけて安く売っていました。ところが構造調整で補助金はなくなり、通貨は切り下げられて輸入穀物は高い値段に貼りつくことになりました。

そうなると彼らは自分たちで食べるための食糧生産も奪われていますし、他の食料も買うことができない。結局飢えることになるのです。構造調整プログラムが入って輸出中心の生産に変えられたことによって、世界では深刻な飢えが起こりました。「飢えたアフリカを救え」という1980 年代半ばの運動があります。

しかしその時でも飢えたアフリカに援助として届いてきた食料よりも、アフリカから先進国に輸出されていた作物の量の方がはるかに多かったのです。今飢えているバングラデシュでもインドでも、全員が食べられるだけの食料の生産はされています。しかし問題はそれらが輸出されてしまって彼らの口に入らないことなのです。

このようにして構造調整プログラムは世界中の貧しい人たちに深刻な影響を及ぼしたのですね。ユニセフの報告書によると、この構造調整プログラムが入って以降、子どもたちの病死、そしてまた乳児死亡率の上昇が起こっている。構造調整プログラムが一つの大きな原因となっていると報告書に書いています。 この構造調整プログラムが押し付けられる国というのは借金をしている国ですね。

この借金をしている国の数が問題です。現在の時点で約120 カ国程度あります。分母はというと、世界銀行、IMF に加盟している国の数ですから約170 カ国、つまり全世界の3 分の2以上の国が─しかもそれらはみんな途上国です─サラ金地獄にはまって、いま言ったような構造調整プログラムを押し付けられているという状態にいまあります。

電気を使ってアルミを作るのに電気の値段よりもアルミの値段の方が安い
──作れば作るほど損をするにもかかわらず輸出しなければならない

ところがですね、不幸なのはこの構造調整プログラムを押し付けられた途上国は、さっき言ったように原料しか売るものが無いんですね。 原料の種類っていうのが何種類ぐらい知ってますか? 現在原料の価格についてはイギリスのロイター指数というのが世界一の指標です。これは実は、たった30 品目の原料の平均値です。そして広く数えた統計を見てもだいたい100 種類くらいしかない。 途上国全体でみると「収入の65%以上が、たった18 の品目の原料によって得られている」ということになっています。

ということはですね、この120 の国が同じ原料を、ロイター指数で言うならばたった30 種類のものを一斉に作らなければならなくなったということです。借金が増えていくにつれ、構造調整プログラムはギンギンきつくなっていきます。そして同じ物を輸出しなければならない途上国は、お互いに同じ物をどんどん作っていった。その結果、市場の中にあまりにも同じ物を提供し過ぎたがために、値崩れを起こしました。 そして現在の時点ではタダ同然の値段になったという流れですね。

このために現在では原料の値段は本当に安い値段になっちゃいました。どれくらい安いかをアルミで調べてみました。 各国アルミは電気を使ってアルミを作りますね。 だから電気の値段よりもアルミの値段の方が高くなくちゃいけないんですね。 ところが、本当にバカみたいな話ですが、どこの国で調べても電気の値段よりもアルミの値段の方が安いんです。

つまり作れば作るほど損をする、にもかかわらず輸出しなければならない。輸出しなければ借金が返せません。借金が返せなければ世界経済から抹殺されることになります。 それが恐いがために損をしてまでも輸出しなければならない状態に今やなっているということです。

永遠に借金を増やしながら返済を続けているという途上国の構造と競わされる先進国の労働者。
カネはどんどんと大金持ちのところに持っていかれる

こんな、もともと赤字輸出といわれるような原価を割っているような輸出をされてしまうと、迎え撃つ側のリサイクルだってそれよりも安くすることは、さすがに不可能です。 今やもうありとあらゆる国がそういう形での輸出をしてきています。 野菜なんかもそうですね、さっきバナナで見たとおり、バナナは12 Kg箱に入れて、全部自分たちで積んで100 円ですからね。得られる収入では、もう彼らの労働賃金は入っていないも同然なんですから。 それが今のモノの輸出なんです。

いまネギとか「セーフガード」っていうことで急に輸入量を制限するってやりましたね、あれ必要なんですね。 というのは、アレやらないと日本の、少なくとも同じ物を作っている生産農家は全て崩壊します。 そういう意味で「セーフガード」というのはある意味必要なんです。

セーフガードの向こう側の作っている生産者の側では、実質的には生産のコストすら割り込んでいるという形ですから、そんなものに太刀打ちできるものはいないんです。そういうような形でどんどん値段が下がっていきました。 この下がっていく時のカーブですけれども、これ、なんと1929 年の世界大恐慌のときの値段の落ちかたとほぼ同じです。

日本では価格破壊、品物が安くなって嬉しいというふうなことをいっているわけですが、ところがその向こう側では今まさに世界大恐慌が起こっていた。そして物の値段がどんどん下がっていって、いくら稼ごうと思っても全然儲からない、貧困から絶対出ることができないという人たちがどんどん作られていった。

そしてこの値段は、90 年くらいには最低まで下がってですね、それ以降上がっていません。 今に至るまで全く上がっていません。 彼らは作れば作るほど損をする構造の中で、それでもサラ金業者にカネを払わないとですね、IMF によって世界経済から消されてしまうから、それが恐いがために永遠に借金を増やしながら返済を続けているという構造になっています。それと自由貿易・自由競争という「経済のグローバリゼーション」によって先進国の労働者も競わされるわけです。この結末はどうなると思いますか。

このような構造の結果、今どういうことが起こっているかといいますと、貧富の格差、拡大ですね。これはまず先進国と途上国、豊かな国と貧しい国との格差としてものすごく開きました。 1990年からさらにものすごく開いていますね。 そして今や、そして皆さんも実感できるようにですね、国内の中でも貧富の格差が広がっているんですね。

日本の中でも貧乏な人、というか普通の人たちと大金持ちではどんどん格差が広がっています。 これが1990 年以降に起こった現象なんです。そして今の時点でいうと、世界の大金持ち200 人で、世界中の資産の41 %を持っています。

そしてアメリカの90 %の資産は(アメリカの90 %の資産ということは世界の大半ということになっちゃいますけれども)、それはたった1 %のアメリカの人たちによって握られています。その一方で「フードスタンプ」、これは日本でいうと生活保護に当たるような食料を供給する制度ですね、これを受けているのはアメリカの国民の14 %です。若年の失業率は20 %です。こういうふうな徹底的な貧富の格差で広がり続けてきた。

だって分りますよね、皆さんがもしどこか日本で生産する会社にお勤めだったとしたら、毎年毎年どんどんピンチになっていくわけです。なんでピンチになっていくか、競争相手は途上国で生産する会社ですね、その途上国の会社はただ同然の値段で売ってくるわけですから、それと競争しようと思ったら、どんなにIT 革命だのなんだのやってみたって絶対太刀打ちできません。

ユニクロの商品に太刀打ちできるような価格の衣料製品を日本の国内で作ることは、絶対に不可能です。そういう形でどんどんとつぶされていく、つぶされていった結果は、大金持ちだけがカネを儲けていくという仕組みになっていくわけです。

このカネの儲け方というのは実にスマートなやり方ができるんですね。 例えば皆さん方の近所で会社がつぶれたとしますね。 今、株式会社を作るには一千万の出資金が必要ですから、最初は一千万出していたんですね。 ところがつぶれたということは債務超過になった、つまりその一千万の資産が全部チャラになったということです。

じゃあ、その一千万がゼロになっちゃったなら、その一千万というおカネはどこに行ったのか不思議に思いますね。 そのおカネは結局、競争させられた相手の企業に入っていくんです。つまりその企業が負けていく中で、その資金はどんどん持っていかれている形になっていくわけです。その持って行き方が色々なやり方がある。一つは金利です、カネを貸すことですね。

これは非常に重要な手段、というか儲かる手段でしてね、実は1980年代にアメリカの銀行がアジアに貸した資金は、年利なんと最大46 %の金利を取ったんですね。 46 %‥サラ金より高いですね、毎年1.5 倍になっていくわけですから。それだけの金利を課したわけですが、その時にカネを借りたアジアの国々が毎年1.5 倍ずつ経済が大きくなっているのであれば、その金利だってまかなうことができます。

ところがその時期の経済成長率は10 %いかなかったんです、アジアの国々では。ということは10 %しかいかないのに、50%取られた、その差の40%はどこへいったのか。アメリカのカネを貸し付けた銀行にいったことになりますね。 10 %の経済成長をアジアの国々がしているように錯覚していたわけですが、そのカネを全て銀行によって持っていかれたということになります。

そういうふうにして非常にスマートな形でカネはどんどんと大金持ちのところに持っていかれるという構造になっていったわけです。IT 革命だなんだといいますけれども、今や貧しい国の側から60 カ国を合計したところの収入が、ビル・ゲイツ一人の収入と同じですね。 ビル・ゲイツはたかが「Windows 」で、ありとあらゆるところから税金のようにカネを奪ってくることができるようになったわけです。パソコン使う人はみんな、まぁ、アップル社以外は、みんなマイクロソフトに税金のようにしてカネを払っていることになります。

ハわたしが知っている自治体ではですね、あるとき「一太郎」というのも流行っていた。一方でマイクロソフトの「Word 」というのも流行っていた。そして両方ともやっぱり入れなくちゃだめだな、ということで両方入れたんですね。 ところが住民が両方入れるのは無駄じゃないかということで、住民監査請求を出した。 その住民監査請求を出したときの金額がですね、三千万円なんですね。各学校に入れた、その二重に重なったソフトのせいで損をしたのは三千万円であります。なんと学校にたかだかWord を入れただけで、マイクロソフトに払ったのが三千万円だったんですね。日本の中に三千三百の自治体がありますね。それらのところがIT 革命だといってWord を入れる、Excelを入れる、Windows を入れる。その度に税金のようにみんなマイクロソフトに持っていかれるというスマートなカネの奪い方によって、マイクロソフト、ビル・ゲイツは世界一の金持ちになった。

ちなみに二位と三位も同じマイクロソフトの社員ですね。そういうふうにカネがどんどん持っていかれてしまうことによって、貧富の格差がどんどん広がっていったわけです。

奴隷船、狂牛病の牛肉輸出、臓器をとられて殺され投げ捨てられる 
──貧しい人たちのところにありとあらゆる被害が届いていくような構造

そして現状では、本当に深刻な事態が起こっています。 いまや途上国の人たちは売るものがない状態です。そういうなかで今どんどんと奇妙な事態が起こっています。 ごく最近ですが、一週間ほど前にガボンという西アフリカの国で奴隷船が見つかりました。 この奴隷船には三百何十人の子どもが、たかだか一人当たり1800 円で売られて奴隷として働かされる予定だった。

その船が拿捕されたんです。ところが子どもはたった20 人ほどしか乗っていなかった。残りの300 人はどこに行ったのか。 どうやら拿捕される前に海から捨てたんだと言われています。そんな事態がいま起こっています。

そしてヨーロッパでは狂牛病が広がっています。 そういう中でドイツは150 万頭の牛を処分しました。 ところがその中には狂牛病でない牛も混じっていましたでしょう。それを北朝鮮が「くれ」と言いました。 北朝鮮はこのまま飢えて死ぬよりも、腹いっぱいになってから死にたいとうことですよね。ドイツは狂牛病の牛を援助として輸出することにしました。「食べても安全だ」と。なら殺す必要もなかったはずでしょう。今後ドイツから狂牛病の牛を含む牛肉が送られていきます。 狂牛病の牛肉はケニアでコンビーフになったものが見つかっていますし、中南米にいくと奇妙に安い値段で牛肉が売られています。

狂牛病というのは脳がスポンジ状になって痴呆化して死ぬという非常に悲惨な病気ですね。 そういう人たちが今度は、あれ潜伏期間が約2 年から10 年くらいありますので、10 年後にアフリカ・南米・中米といった国々でどんどん起こってくるということになります。 つまり貧しい人たちのところにありとあらゆる被害が届いていくような構造になっていくわけなんです。

そしてさらに深刻なのが臓器輸出ですね。 誰でしたっけ、この間死んだ‥ジャンボ鶴田でしたっけ‥という人が臓器移植を受けていますね。なぜ日本で受けないか、全部臓器移植を受けている人たちは日本以外の国で受けています。 そこの臓器はいったい誰が提供したのか、アメリカの場合には貧しい人が臓器を売るというのが商売になっていますから、それはそれでありうるんですが、それ以上に深刻なのはマフィアがそれに手を染めている商売です。

南米に行くとですね、臓器のバイヤーなんてあたりまえにいます。そのために子どもが次々と誘拐されて、それで臓器をとられて殺されて投げ捨てられるという事件が山のように起こっています。 この間、日本人がグアテマラで殴り殺された事件がありましたね。観光客の一人です。あそこの地域では何が起こっていたかというと、やはり臓器売買のために子どもが誘拐されることになるだろうという噂がすでに流れていた。それはどうやら中国マフィアだという噂が流れた。

そこに日本人観光客が来てですね、パシパシ無礼にも写真を撮っていたわけです。「こいつだ!」地元の人たちはそう思って、その人たちをみんなで殴り殺してしまったわけですね。臓器売買はもう非常にメジャーな産業になっています。そして不幸なことに中南米の地域では、それを調べるとあっという間に殺されます。麻薬は買う人が悪いんだからと言い開くことができるので、麻薬の売買をいくらNGO が批判してもなかなか殺されませんが、臓器売買をやっている人たちは、これはもう最低のマフィアですから、人を殺すことを何とも思っていません。 ですので、中南米地域で臓器売買の実態が明らかにならないのは何故かというと、調べ始めた人は即座に殺されるので、その痕跡が残らないだけなんです。

そういう事例はアジアの各国を調べてみても、たくさん見つかります。 そこまで追い詰められた人たちを作ってしまったのが、今の経済ということができるだろうと思います。

ロシアではアルミ精錬工場が一つあると、その周囲五万ha から十万haが全部白骨化していく

その途上国の生産する側の人たちも、そんなに損をしたくないですよ、もちろん。損をしたくないからコストを削ります。 削れるコストは二つしかない。一つは環境コストです。環境のコストとして、もし木を切るのであれば再度植林は絶対しない、ということで安く木材を輸出します。

この典型はカナダですね。 カナダは森の国だなんて思っていたりするかもしれませんが、カナダでは一度伐採された森は二度と植林されていません。 切り出したところで1 立方m、水でいうと1tの量、1m の立方体ですね、それだけ売ってたった60 円です。

その60 円のコストの中には植林をするコストは絶対に入りません。 その値段があまりにも安いためにマレーシアですら安すぎるとカナダに文句をいっています。 つまり世界の各国は、そのカナダのあまりに悪どい木材輸出に合わせざるを得なくなっています。そのために他の国も植林できない値段で売るしかないのです。

アルミの場合で言うと、実は精錬過程で『フッ化水素』という非常に危険なガスが出ます。このフッ化水素を普通は除去するんですが、世界一安くアルミを輸出しているのはロシアなんですが、ここではフッ化水素を除去する装置自体を最初からつけていません。

ですからフッ化水素が流れっぱなしです。 フッ化水素は猛毒なんで、風に乗って流れると森に流れますね、そうすると流れた通りの形で森が白骨化するんです。全部死んじゃいます。もちろん人間も死にます。そのフッ化水素が流れていくがためにですね、ロシアではアルミ精錬工場が一つあると、その周囲五万ha から十万haが全部白骨化していく。

しかしそのアルミも結局アルミとしては99.99%の純度、つまり全然変わりがないアルミ製品として市場で取引されています。 それと競争するアルミメーカーはフッ化水素を除去する装置のスイッチをオフにするか、取り外してしまうかしなければ競争できないことになります。

今の時点で起こっていることは「悪の競争」です。各国の企業が戦って何をしているかというと、より悪いことをやる努力をしています。 こういうことの結果として今、環境は破壊され続けているんです。もう、こういう構造を放置した中で環境が改善される余地はありません。どんどん悪化していくだけだと思います 。

もう一つの削れるコストは人件費ですね。最低賃金というと、日本では最も貧しい人の賃金ですが、途上国では最ももらえる人の賃金です。しかしブラジルでは、その最低賃金ですら生活していくために必要な費用の三分の一にしかなりません。

数年前にできた中国の最低賃金は日本の百分の一でした。精一杯働いても生きていけないのです。これでは自給自足の時代の方がはるかにマシですね。生きられるだけでも。この賃金と競うのがグローバル経済の自由貿易です。私たちの生活が良くなると思いますか?

今進んでいるのは、まさにこういう構造だと言うことができると思いますね。これを私たちは何とか解決していきたいと考えたわけです。しかし私たちに世界銀行の貯蓄があるわけでもないし、ごまめの歯軋りのようなものです。何か私たちに関わることがないものかと考えました。

私たちが仙人のような暮らしをしてゴミを出さなくても二十四分の二十三残ります。
  これを解決したといいますか?

そしの一つのキーとなったのが私たちの貯金ですね。 IMF に対しても世界銀行に対しても一番金を出しているのは日本人の貯金、なおかつ中でもとりわけ目立つのは郵便貯金を中心とする財政投融資でした。 ですからこの郵便貯金に預けないということが少なくとも必要だ、私たちが白紙委任の形で銀行に預けるなり郵便貯金に預けるなりしたカネは、まさにこういうことのために使われている。

こういうことのために使われていることを放置しながら、私たちが日々ですね、リサイクルを多少努力しましょうみたいなことをやってみても、これだけでは無駄だろうと思います。リサイクルは必要ですよ、エネルギー的には有益だし、やるべきだと思います。

しかしリサイクルだけでは足りない構造があるということですね。この構造を放置しておくならば、私たちは、自己満足はできるかもしれないけれど、絶対に解決できないということになるでしょう 。

さて、私たちに何ができるかということなんですが、一つはこういう構造をしっかりつかんでいって、原因にどんどんと肉薄していくことだと思います。

私、最近本を出しまして、「日本の電気料カネはなぜ高いか」という本なんですけれども、その中で明らかにしたのは発電所が限りなく作られていくのは、私たちのライフスタイルのせいではない、ということでした。発電所が必要になるのは真夏の消費電力ピークのせいでして、この真夏のピークの時間帯というのは、実は家庭の消費量は最も少ない時間帯なんです。 家庭の消費量は全電気消費量の23 %しかありません。

中でも真夏のピークの時間帯というのは平日の日中ですから、ほとんど産業が使っていまして、一般家庭は9 %以下しか使っていません。 ですから私たちが省エネをしてですね、発電所を作らせるのをやめさせましょう、努力しましょう、私たちが仙人のような暮らしをして電気を一切使わないというようにしたとして、じゃあどうなるか。9 %しか減らない。 産業の方はさらに増やしていきます。

今年も全体の消費量は減っているにもかかわらず、産業の方は3.8 %も伸びました。 そういうことの結果として事態は悪化していくんですね。 だからそのピークの時間帯の消費量というのが、実は発電所の増設を止めるポイントになるんです。ところがその時に、私たちは私たちの身近なところからというふうにやっていく。ライフスタイルの問題だからと省エネする。それ自体必要ではあるんだけれども、しかしピークにはほとんど影響しませんから、それだけでは解決できないんです。

何故そのピークがあがっていくのか、それは非常に簡単です。家庭の電気料金は使いすぎると高くなります。 使っていくと電気単価は一旦下がるんですが、使いすぎると値段が高くなるんですね。 ところが産業の電力の値段は、最初は基本料が高いので非常に高いのですが、単位あたりの従量料金は安いですから、使えば使うほど一方的に下がっていく。

ですから企業の中では使う月、7月と9 月なんですけれども、使う月にはなるべく使った方が1kWh あたりのコストが安くなります。これがピークを限りなく高くしている原因なんです。ですからこれを問題にしなければいけない。

つまり産業が消費をしていく時に、産業がどんどん消費するような価格の作り方をしているんだ、電気料金はそういう作られ方をしているんだ、これを問題にして変えなくちゃいけない。にもかかわらず私たちすぐ反省してですね、じゃあ私のライフスタイルの努力が足りないのねということで、一億総懺悔の側に走ってしまう。

それはそれで必要なことだけれども、それだけでは解決できないことなんだということを学んでおく必要があるわけです。私たちが自分の人生を考えてですね、この先どうしようかと考えたときに、手当たり次第なんでもやってみるというのも一つのやり方かもしれないんですが、通常は先のこと考えますよね。こうやったらああなるし、ああなったらこうなるし、というふうに先のことを考えます。

同じように環境問題の時にも、こうやったらああなるんだ、ああやったらこうなるんだと、ちゃんと調べることが必要なんです。原因は何処にあるのかということをちゃんと突き詰めて、その「原因に対して対策」していかないと解決していかないことになります。

東京都のゴミの中、一般ゴミの中で、家庭から出ているゴミは約三分の一だけです。残り三分の二は事業系のゴミです。そしてそれは一般廃棄物でして、一般廃棄物の三分の一が家庭ですね。一方ゴミには産業廃棄物というのもあります。 産業廃棄物は一般廃棄物の8倍あります。だから東京で出ているゴミでいうならば、皆さん方の出している家庭系のゴミというのは二十四分の一ということになります。

その中で私たちが努力をしてゴミを出さない、もうゴミが出るくらいなら全部食っちゃえ、というくらい、もう仙人のような暮らしをしたとして解決できるかということです。二十四分の二十三残ります。 これを解決したといいますか?ということですね。

ですからその根本をきちんと見ていかないと、私たちは善意の努力を一生懸命しておきながら、解決に至らないということになってしまうわけなんです。こういうことをきちんと調べていくということが、まずは非常に重要だと思います 。

自分の内側に留め続けるんであれば何ら意味がないんです。
 それを何らかの形で表現していかないとムダになっちゃうわけですね

私たち、地域のグループでこういったことを調べましたけれども、もちろん地域の中でちまちまと調べていった結果です。これは誰にでもできることです。しかしそういうことをやろうという人は学者の人にあまりいませんね。市民は学者に頼りすぎてはダメです。市民が自らやらなくちゃいけないことも多いんですね。

学者の人たちにゴミ問題を語らすと、国内問題にしちゃうんです。 これを国内問題としてとらえると、ゴミにするかリサイクルするかだけの問題ですね。ですからゴミはリサイクルすれば解決できますというふうな理屈になってしまう。これは違うんです。

本当は国際的な問題なんです。国際価格が安すぎることが資源をムダにさせる原因なのですから、それが分らないと見当違いな対策しか出てこない。いま学者達が入って××懇談会・審議会というのを出していますが、どこの答えを見てみてもまともなものはない。

なぜならば彼らは経済の構造が分っていない。それをやるべきなのは、学者ではなく市民だと思う。 市民運動というのは市民がやるから市民運動なんですね。学者がやるなら学者運動でしょ。市民が自分で調べていって、その結果としてその社会を変えていくというふうになっていかないとダメじゃないか、と一つ目に思うんです。

そしてもう一つ、市民はですね、とりわけこういう勉強というか学習をしていくと、「教養」にする人が多いんですね、「教養のために聞きに来ました」とか言って。 その「教養」という言葉を考えてみてください。 教養という言葉は、インプットはするんだけれど、出さないから「教養」と言うんですね。

出さない勉強はする必要はありません。 出さないんだったら最初から全く学ぶ必要はないんです。出す必要があるからインプットが必要になるんですね。 アウトプットがあるからインプットが必要になるんであって、アウトプットを考えないなら最初からする必要がありません。しないほうがましです、その方が楽ですしね。 ということは、「アウトプットを前提にしてインプットすべきだ」ということになっていきますね。

例えば今日、皆さん方が初めて聞いた話が多少あったかもしれません。 そういうことをですね、自分の内側に留め続けるんであれば何ら意味がないんです。それを何らかの形で表現していかないとムダになっちゃうわけですね。それは「表現」といっても、「講演会」をやるとか「本を書く」とかいうことだけではない。表現の形態はもっと自由なものです。

フィリピンでは運動が起こる時に、必ず歌がついてきます。マレーシアでは運動が起こるときに劇がついてきます。 いろんな劇や歌をやるんですね。 それぞれの国にはそれぞれの地域、それぞれの地域ごとの運動のやり方があります。 ダンスをするのもいい。落語なんて手もあるだろうし、日本で一番影響力をもつとしたら多分アニメーションと漫画でしょう。こういったこともアウトプットの中に含めてもらって、皆さん方が受けとめたことを自分の中で消化しながらアウトプットに変えていく、ということを考えてほしいんです。

私たちの運動の方向としては三つしかないんです。横に伝えるか、政府に圧力をかけるか、もう一つは別な社会を自ら作ってみせるか。横か、上か、新しい方法か、その三つしかないんですよ。

それにはそれぞれ自身がアウトプットをしていくことがどうしても必要です。それがなければ運動は広がっていくことができません。 そうすると、環境も社会もこのままだめになっていくだけということになっていってしまいます。そのためにどうしたらいいのか?三つ目の新しい方法について話しましょう。

地域通貨の運動はその時になったら圧倒的な力を持ちます

私自身が最も必要だと思っているのは、市民が別な社会を自分自ら作っていくことです。先ほど言ったようにカネの問題というのは非常に重要ですね。このような経済を作ってしまったのはカネです。とりわけ金利の問題が非常に大きい。 『レインボーリング』の方、結構いらっしゃると聞いたんですが、レインボーリングというのは地域通貨の一つとして動かれているわけですが、この地域通貨というのは、その通貨を使っている範囲でしか経済が広がっていかないんですね。 つまりこれは、世界経済に対しての完全な地域防衛システムなんです。今円を持っていたとしても、円はいつ暴落してもおかしくないですね 。

これから少子高齢化、子どもが生まれないのに高齢者がどんどん増えていく社会になります。2050 年の時点では60 歳以下の人たち二人で、65 歳以上の人ひとりを養わなければならない状態になっていきます。 そのためにですね、年金の掛け金と税金はどんどん増えていきます。 2025 年の時点でいま想定されているのは、税金の負担と年金の負担で73%になるだろうという予測です。

つまり一千万円稼いだとして自分で使えるのは270 万円です。そういう状態がこれからの未来に待っているんですね。 そうすると日本は貯金がいま1200 兆から1400 兆あるっていうふうに言われてますが、貯金するゆとりがなくなってきますね、どんどん減っていっちゃいます。

貯金が減っていくんだけれども、ところが日本の国債の借金、あれはもう700 兆近くまできていますね、その借金の方がどんどん増えてくるわけです。毎年毎年増えています。 今、一秒間に約300 万円づつ増えていますから、いずれ貯蓄額を超えていきます。

つまりいずれ私たちの貯蓄額が下がり、国の借金が増えてそれを追い抜く時が来るわけです。この時どうなるか?今は日本人が日本の国債を買っています。 貧しい納税者が豊かな国債購入者に金利を払っている構造ですが、それでも国内の中で動いているだけのことですね。

ところが日本人が国債を買いきれなくなります。誰に買ってもらいますか?もちろん海外の投資家に買ってもらわなくちゃならないです。海外の投資家から見たら日本はどう見えますか。 これから少子高齢化で圧倒的に力を無くしていく国、借金を減らすどころか毎年増やし続けていく国、そんな国の国債をなんで買えるものか。そうすると非常に金利が高くなければ誰も買わないということになるでしょうね。その国の通貨をなんで信じられるものかということになりますね。

つまり円は暴落していくことになります。 これまでに1 ドル360 円から100 円に上がった、まあ一時期80 円まで上がったわけですが、これが今度は逆の現象を起こしていくでしょう。1 ドルが1000 円出しても買えないというぐらいになっていくことになるかもしれません。

ところがその時に、今の日本は食料自給率がカロリーベースで4 割しかない、6 割輸入ですね、円が下がったら買えないです。そして日本は全てのエネルギーのほとんどを、輸入している石油・石炭・ガスそれとウランに頼っていますね。 ウランなんて準国産エネルギーなんて言ってますが、日本国内で取れないですし核燃サイクルも全く見通しが立ちませんせんから全然役に立ちません。

ということはエネルギーも買えないということになります。 寒い冬に食料もなくエネルギーもないという状態になりかねないことになるんですね。その時にどうしたらいいのか。「ワット」という地域通貨もありますね。 そのワットという通貨は、自分たちで作る自然エネルギーで自分たちの電気を作ろうよ、というもので地域通貨を位置付けています。このワットの人たちはその時期になっても何ら困ることはない。 なぜならば自分たちで電気を作っているから。

同じようにですね、地域通貨の運動はその時になったら圧倒的な力を持ちます。なぜならば国際経済と切り離した自分たちの地域を持っているから、自分たちの地域の中にはドルや円が暴落したってそんなの全然関係なく経済がまわっていくことになるからです。

地域通貨というものは以前から世界中の途上国で広がっていました。これはインフレ対策だったんです。通貨を握っていると損をするんです。

わたし92 年にブラジルに行きましたが、そのときにたった2 週間で2 割も通貨が落っこちちゃったんですね。最初にブラジルの通貨に換えてしまうと、2 週間後には2 割減っちゃうんですよ、100 円が80 円になっちゃうわけですね。どんどん下がっていってしまう。ブラジルの人たちはどうしているかというと、リオのカーニバルの衣装を買っておくんですね。なんでかっていうと、リオのカーニバルの衣装というのは、毎年カーニバルの時期になると高く売れるんです。

だからカネで持っているよりも服を買って持っていた方が、同じくらいの値段で売れるから得になるんです。インフレでどんどん通貨が下がっていく国では、物で持っていた方が得なんです。その理屈をそのまんま考えてみたら、地域通貨を作ったらその方が得だなってブラジルの人たちは気づいたんです。例えば床屋をやってもらいました、その「床屋一回」という単位はいつまでたっても「床屋一回分」です。大根一本もらいました、それは「大根一本」の価値というのは貨幣とかと関係なく、地域通貨としては「私は大根一本もらいました」という価値を持つ。

だから地域通貨が広がったんですね。 その地域通貨は、これからの日本の将来を考えると一つ大きな方向性を持ちうると思います。 そしてまた自然エネルギーですね、こういうふうなものも完全に国産で、自分たちで作ることができるエネルギーですから、これも大きな可能性を持っていくだろうと思います。 これをグローバル経済の波と分離して育てていくためにも、地域通貨の必要性が出てくると思います。

非営利の市民セクターが自ら社会の主体となってそれに代わっていく

そしてですね、最後に何よりも私が大事だと思っていることを伝えたいんですけれども、それは経済の主体です。これまで私たちは企業に勤めるか、役所に勤めるか、そんな形でどこかに所属する、ぶら下がっていく、という生き方しか考えてこなかった。 ところがですね、社会は三つのセクターに分けて考えることができます。

ひとつは行政です、これは英語で言うとガーバメント・オルガナイゼイション、GO ですね。もうひとつは産業です、産業は金儲け、利益のために動く組織ですから、プロフィットを求める組織、プロフィット・オルガナイゼーションですね。三つ目に来るのはなにか、非政府組織NGO 、非営利組織NPO 、つまり市民セクターです。

ここの部分が英語で言うところのサードセクターですね。日本ではなぜか行政の不親切と産業のがめつさを兼ね備え、なおかつ赤字という部分を第三セクターと呼んじゃったんですが、本当の英語は市民側を第三セクターといいます。 この三つのセクターはですね、常にどんなジャンルにでも同時に成り立つんです。

アメリカで医療にかかりたいと考えたとします。 行政の医療があります。まぁ、安いんだけれど不親切だし数も少ない。一方でカネさえ出せばブラック・ジャック先生が何でも治してくれるというような金儲けの営利病院があります。 そして最も多くの人たちがかかっている『クリニック』というのは、全てNPO として運用されています。

カリフォルニアで停電が起こりましたね、あれは産業セクターの行き過ぎた金儲けの結果でした。一方でですね、カリフォルニアの中でサクラメント市では一切停電が起きませんでした。 そのサクラメント市にあるSMUD という電力会社があるんですが、これはなんとNPO として電力を供給しています。 電力会社もNPO なんですね。

そして例えばデンマークのリサイクルを成り立たせている主体はR98 と呼ばれるNPO です。その100年以上やっているNPO が、そのリサイクルの中心を担っています。 どんなジャンルで考えたとしても必ず、行政・産業・市民の三つのセクターが成り立つんです。行政の保育園があります、産業の24 時間保育園やヤクルト保育園があります、市民の共同保育所があります。

そしてこの三つはチェックアンドバランスするんです。もし行政が不親切で効率が悪くってカネがかかってしまってどうしようもないんだったら、市民が、じゃあ私たちが代わりに今のおカネの8 割でいいですから補助金として出してください、そうすれば今と同じサービスを、もっと親切に提供しますよ、と担えばいいんです。

行政も多分2004 年くらいから、自治体とかから順につぶれていきますから、これをどんどん市民に譲らざるを得なくなります。今はみんな産業に譲ろうとしていますが、もちろんNPO やNGO が取っていっていいんです。一方で産業があまりにもがめつくて高いのであれば、ここもまたNPO が取っていってしまえばいいことになります。

マイクロソフトがいま一番おびえているのは「Linux 」というソフトですね。 この「Linux 」というソフトを作っているのは市民とNPO ですね。自分たちで完全にフリーなソフトとして、独占されないみんなで作り上げるソフトにしよう、それによってWindows でない、皆で改善していける「Linux 」を進めていこうよ、という動きが起こっています。 これも非営利の活動ですね。これがいずれWindows を追い詰めてくれたら気持ちいいだろうと思いますけれど、こういうふうな形であまりにも産業ががめつすぎる時には、NPO が代わりにこの分野を取っていくという可能性があります。

つまりただ産業や行政を非難するのではなくて、非営利の市民セクターが自ら社会の主体となってそれに代わっていく可能性です。そもそも産業とNPO の違いは株式の代わりに寄付を集め、配当をせずに長期投資できる点だけです。この寄付金に対して所得控除制度を設けて免税すると、行政に納税するか、NPO に寄付するかを選べる仕組みになります。

さて、そこで考えて欲しいのが、皆さんは何ができますかということなんです。皆さんは今までどこかの会社に勤めていたりなんなりして、色々な経験をしてきました。 その経験はこういう形で活かすこともできるはずです。私自身も「未来バンク事業組合」という金貸しをやっています。

この金貸しはですね、NPO として金儲けをしない金融としてやっています。それは環境にいいものか、市民事業を起こそうとする人にしかカネを貸さない、固定の3 %、今じゃ高く感じるかもしれないけれど固定の3 %で貸すという形でしか貸さない機関をNPO で作っているんです。

こういうのができたことによって、市民事業は活動しやすくなりつつあります。これまでは自治体などから仕事を受けても、カネの支払われる年度末までの金策が大変だったんです。しかし今なら未来バンクから融資を受けることができます。今、未来バンクは出資金が一億も集まって、三億六千万貸したんですけれども貸し倒れゼロという中で運営されているんです。

こういうことはそれぞれの人たちのジャンルでできるはずです。今どこかにお勤めなんであれば、今の会社で学んだことをいずれここに役立てるというつもりで学んでもらったとするならば、それは後に同種のNPOを設立する時に非常に役立つことになります。

私の友人は生命保険会社に勤めていましたが、生命保険会社の中でよくよく調べてみると、掛け金は今の半分でも成り立つ、だから俺はいずれ生命保険会社を作りたい、でも生命保険会社の代数の法則というのがあって一定規模がないと生命保険は成り立たないからどうしたらいいかな、じゃあインターネットで一万人まで広がったときに会社を設立するという形にしたらどうか、というようなことを考えています。

そういうふうに今まで学んできたことをNPO で活かすことができる。 つまり社会は自分たちで作っていくことができる、自分たちで作っていくものだ、と変えていく必要があるということです。

そのためには制度も変える必要があります。 アメリカでは税金を行政に100 払うか、NGO ・NPO に200 払うかを実質的に選択できます。 なぜ選択できるかというと、NGO ・NPO に寄付した場合、非常に大まかに言うとその二分の一を控除、つまり税金の額から減額してもらうことができることになっています。

そうすると200 (これは大雑把な数字ですよ)寄付した場合、その二分の一は税金から控除されるので、100 払ったのと同じ扱いになります。 行政に100 払うのもいい、しかし200をNPO に払ってもいい同じ扱いになる、という選択制になっていますね。 そのことによって市民セクターはどんどん広がり、第二の公共と呼ばれるまでになっています。

こうしたことを起こしていければ、私たちは今の社会を変えていくことができます。 産業があまりにも悪どいのであれば、もっと良いやり方のNPO を伸ばしていくことでこの産業を変えさせられます。

例えばですね、太陽光発電パネルをつけるのに、5 年前に出たとき600 万円で売り出されました。ところが反原発から始めた市民事業の「レクスタ」という自然エネルギーを供給しているところでは、同じ物を450万円で売り出しました。 「450 万で大丈夫なの」と聞いたら、「いやちゃんと利益もいれて450 万で成り立つんだよ、つまり企業がバカ高く儲けようとしているだけなんだよ」ということでした。そしたら産業は慌てて、アッという間に450 万に下げてきたんですね。

つまりここにNPO がいなかったとするならば、産業は好き勝手のし放題になってしまう。それを抑制していくためにも、この三つのセクターが各々成り立っていくことが大事なんです。こういうふうに社会を変えることができるわけなんです。

そしてもう一つ言うならば、私たちの生活の中でも、もっと色々なことがもっとできるはずです。物を買うときに安いからと買うんではなくて、フェア・トレードの会社から買ってやれるならば、そうすれば作った生産者の人たちのところにはるかに多い額の支払いが届いていくことになります。

さっきのスライドにでていた「D バナナ」を買うよりも、ネグロスキャンペーンのやっている「ネグロスバナナ」を買ってやれば、その方が地元の人たちの役に立ちます。そういう商売が成り立ち、どんどん広がっていくならば、他の企業も真似をすることになります。

おカネを使って何かを買うというのは、投票と同じくらい重要な行為ですから、それをちゃんと役立てるというふうなことが必要なんじゃないかと思いますね。 そしてもう本当に最後にしたいんですけれど、皆さん方にお願いしたいのは、皆さん自らが他の人たちに伝えていく、アウトプットしていく主体になって欲しいということです。

そして社会を作っていく主体になってほしいということです。皆さん方は能力を持っています。 それがただ社会の中にぶら下がって生きるのではあまりにももったいないし、それを続ける限り、社会は絶対に良くなっていかないです。今の構造を打ち壊して次の社会を作っていける主体になっていって欲しい、そう願っています。じゃあこれで終わりにします。 どうもありがとうございました 。