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地球を殺すな! 環境破壊大国・日本 伊藤 孝司 (著)/風媒社 から抜粋

‥‥「地球白書2004-5 」は次のようにも述べている。「世界でもっとも豊かな国々の消費活動は、しばしば見えないかたちで、遠く離れた地域とその土地の人々に大きな犠牲を強いる」。天然資源をあまり持たない日本での物質的に豊かな生活は、世界各地での強力な資源獲得と経済活動の結果なのである。この本は日本の政府と企業が、アジア太平洋で暮らす人々の犠牲の上に資源や利益を得ている姿の、さまざまな現場を訪ねての報告である。

この取材で訪れた環境破壊の現場は、かつて日本が軍隊を送り込んで支配した場所であることが多かった。また先住民族が、環境破壊で被害を受けやすいことも分かった。日本のODA によるダム建設や製紙用の森林伐採で生活できなくなったインドネシアの人々、日本企業の売電事業のための巨大ダムで被害を受けているフィリピンの先住民族、日本の原発メーカーによる台湾への原発輸出、日本の原発のためのウラン鉱山で被害を受けているオーストラリア先住民族、日本などへの木材輸出で消えようとしているシベリアの森、日本など「先進国」が出す二酸化炭素などで海に沈もうとしている太平洋の国々。

こうした日本による海外での活動は、その国や日本の法律からすればほとんどが違法ではないだろう。だが現実には、日本での資源を大量消費する便利で快適な生活が、アジア太平洋での深刻な環境破壊を引き起こし、そこで暮す人々に犠牲を強いているのだ。しかもそれは、地球全体の環境をも確実に悪化させている。今のこの状態を容認するならば、私たち日本の消費者はアジア太平洋の人々と自然だけではなく、自分たちの子や孫たちに対しても加害者となってしまう。‥‥

‥‥私はこの本で、アジア太平洋で環境破壊を続けている日本の政府と企業の「悪行」を指摘し、厳しく批判している。だが、地球環境の悪化にもっとも加担しているのは米国である。

私は日本のジャーナリストとして、自分が暮らす国の過ちを正すことを他国の問題よりも優先して取り組まなければならないと思っている。世界中のジャーナリストや市民たちは、他国に被害を及ぼす自国による環境破壊をやめさせるために努力をすべきだ。‥‥

‥‥「豊かな人々こそ、肥大化した物欲を抑制しなくてはならない。ある概算によれば、環境保護と社会的公正というこつの命題を満たすためには、今後数十年間で豊かな国々の物質消費を90% 削減することが必要であるという」(ワールドウォッチ研究所「地球白書2004-5」)。

限られた地球の資源を一気に食いつぶそうとしている今の社会のあり方を根本から変え、持続可能な社会実現への真剣な努力をするしか人類が生き延びる方策はない。そうした社会の実現を政府に対してより強く求めていく必要がある。それと同時に私たち自身が、日常生活で天然資源の消費量を大胆に減らし、再生可能な資源を少しでも少なく使うなど、環境に少しでも負担をかけない生活をすべきだ。「便利な生活を覚えてしまった今となっては、以前の暮らしに戻すことなど不可能」とほとんどの人が思っているだろう。だが、地球環境の深刻な状況からすれば、こうした考えは人類のエゴでしかない。もはや地球には一刻の猶予もないのである。地球を殺してはならない。

地球の未来よりも自国の目先の利益を優先する大国によって、地球温暖化を止めることができない。この現状を見ると私は絶望的な気持ちになる。だが結果はどうなるにせよ、これ以上の環境の悪化を防ぎ少しでも修復するための努力を歩ずつ確実に続けていくしかない。
それが次の世代への私たちの責任だろう。